富める者をさらに勝たせることが得意な「暴れ馬・資本主義」に「民主主義という手綱」をかけることで拮抗を保ってきたのが、ここ数十年の民主社会の構図であった。しかし、21世紀を迎えた現代においてはそのバランスが崩れかけている。資本主義の加速と民主主義の重症化だ。
ネットを通じた中東の民主化運動である「アラブの春」は一瞬火花を散らしただけて挫折し、むしろフェイクニュースなどの侵食により、米トランプ大統領、ブラジルのボルソナロ大統領などのポピュリスト政治家が増殖したと信じられている。
実際、民主主義は後退しており、非民主化・専制化へと舵を切る国が増加傾向にある。スウェーデン発の「多種多様な民主主義(Varieties of Democracy=通称V-Dem)」プロジェクトが作成した2001~19年における民主主義指数とGDP成長率の分析も、民主主義と経済成長の間に負の相関関係があることを示す。これは20世紀には見られなかったものだ。
「民主世界の失われた20年」とでも言うべきこの現象は、どの大陸・地域でも見られるグローバルな現象である。
コロナ禍では民主主義的な国であるほど命も金も失っている。「人命か経済か」という二者択一の議論はおそらく的外れだっただろう。その両方を救った国家はあったのだから。
前出のV-Demプロジェクトは、民主主義と専制主義の現状を定点観測するデータを世界中の国から収集しているが、著者はそこから次のような示唆を得る。民主主義への典型的脅威が今世紀に入ってから世界的に高まり、とりわけもともと民主主義的な国でその傾向が特に顕著であることだ。
ここでいう民主主義への典型的脅威とは、①政党や政治家によるポピュリスト的言動、②政党や政治家によるヘイトスピーチ、③政治的思想・イデオロギーの分断、④保護主義的政策による貿易の自由の制限、の4つだ。横軸に各国の民主主義度合い、縦軸に各4指標の過去20年間での増加分をとったグラフを作成すると、見事にどの指標も正の相関関係が見られた。
トランプ元大統領のような政治家が増え、政治的な分断の高まりに乗じて極端な政策を掲げる。将来の税制や貿易に不透明感が増し、事業活動と経済政策を鈍らせる。
インターネットやSNSの興隆も過度に民主主義を磨き上げ、世論の細かな動きまで政治を反映するようになった。「超人的な速さと大きさで解決すべき課題が降ってきては爆発する21世紀の世界では、凡人の日常感覚(=世論)に忖度しなければならない民主主義はズッコケるしかないのかもしれない」。
こうして、民主主義が重症に陥っている。では、民主主義が生き延びるためには何が必要だろうか。
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