電子部品メーカー・月島電機の碇川社長は悩んでいる。就任から6年、なんとか黒字を維持してはきたが、コストダウンや投資控えといった消極的な経営に終始している。現状維持では未来がないのではという不安もある。そこで敏腕経営コンサルタント・深町に仕事を依頼することにした。
深町がまず指摘したのは、月島電機が研究開発投資を削減してきた点だ。その経営手法は「企業価値を最大化するための活動」すなわち「ファイナンス」と正反対だという。ファイナンス思考とは、外部から出資を受けている株式会社が守るべきルールだ。まずはその会社の仕組みを見ていこう。
起業家が資金を必要とした際、投資家にお金を出してもらい、外部株主になってもらうことがある。そのお金は設備や従業員に支払われ、それにより商品やサービスができる。これが「事業投資」というプロセスだ。できあがった商品やサービスが顧客に「販売」され、債権の「回収」というプロセスを経て初めてお金になる。この一部を配当金などの形で投資家へ還元し、一部は社内にとどめて事業投資へと回す。こうした流れでお金を循環させるのが原始的な会社の形だ。投資家は、会社の株式を別の投資家に売ることもできる。この市場をセカンダリー・マーケットと呼ぶ。投資家間で株式がやりとりされても、会社にお金が入ってくることはない。会社に一切資金提供をしていない投資家であっても、その会社の株式を保有していればその会社が稼いだお金は配当金などの形で還元される。セカンダリーマーケットの投資家の間で株式やお金が循環しているのは不思議に思われるかもしれない。
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