「発達障害」という言葉が広く知られるようになり、周囲の人に受診をすすめられた人だけでなく、自ら「発達障害」を疑って医療機関や相談機関を訪れる人が増えてきた。後者のケースでは、長年生きづらさを抱えて悩んできて、その原因が「発達障害」だとわかれば一歩前に進めるのではないかと期待を抱いていることが多い。
正確な診断のためには、丁寧な問診と診察、発達検査が必要だ。きちんとした発達検査が行われずに診断が下されるケースがある一方、長時間の検査の結果、障害というほどではない「グレーゾーン」、境界域だと判定されることもある。障害というレベルでなかったことは喜ぶべきことのはずだが、自分の生きづらさの原因を「発達障害」に求めて検査をしにきた人は、曖昧な回答をどう受け止めていいのか戸惑い、複雑な反応を示すことがほとんどだ。
グレーゾーンという判定は、「それは苦しむほどの深刻なものではない」という意味ではない。多くのケースに向き合ってきた著者の経験から言えば、グレーゾーンの人は障害レベルの人と比べて生きやすいどころか、より深刻な困難を抱えていることすらある。グレーゾーンには特別な治療アプローチが必要であるが、そうしたことはあまり理解されていない。
本書では、分断されがちな子どもと大人のグレーゾーンを、子どもから大人まで通した問題として考えていく。両者をつながった一人の人生として連続した視点で捉えることで、はじめて何が起きているかを見通すことができるようになるはずだ。
グレーゾーンと診断され、「様子を見ましょう」と言われた場合、本当に何もしなくて良いという意味ではない。子どもの場合、軽度な課題であってもできるだけ早くから療育やトレーニングを行うことが、予後を改善することにつながる。重い自閉症と言われたケースでも、早期の集中的な療育で、健常と変わらない状態にまで回復し、発達の遅れを取り戻すケースがある。一方、比較的軽度な問題であっても、自然の成り行きに任せていると、弱い部分がさらに弱くなって、ある時期から深刻な問題として表面化することになりやすい。「グレーゾーン」は、細やかな注意と適切なサポートが必要な状態であるということをよく認識しておくべきだ。
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