電気設備工事業を専門とする松川電氣株式会社は、独立独歩の経営で、創業以来55年連続リストラなしの黒字経営を続けている。社員の「人間力」の育成と、「3つの健康づくり経営」を貫き、地域を代表する電気設備工事の総合サービス企業にまで成長した。
創業は1967年。松川智氏が、卓越した技術力を武器に静岡県浜松市に会社を起ち上げた。後任に指名された現社長の小澤邦比呂氏が、「大家族的経営」や地域への貢献施策などで事業を拡大。社員数50名足らずにもかかわらず、現在では、学校、病院、オフィスビルなど大規模施設から直接受注されるまでになった。小澤氏の人生には、小さい頃に仕事で留守がちだった父に代わり、経営の話を子どもにもわかりやすく教えてくれた祖父、誰にでも分け隔てなく親切に接していた母親の存在が大きな影響を与えてくれる。二人からの教えを守り、社員だけでなく、社員の向こう側にいる家族や子供の幸せまで願う経営を実践していることが、長年の黒字経営につながっている。
「人のための経営」は、入社にあたっての最終試験に顕著に表れている。新卒の人にも中途の人にも、「お母さんの足を洗って」と題した作文を、原稿用紙に手書きで2枚程度書いてもらう。
小澤氏がこの試験を思いついたのは、先祖供養のために訪れた春季彼岸会の席でのことだった。住職さんが「母親の苦労を知り、心から親を敬い感謝できるような社員を育ててください」と説いた「親孝行」の法話に感銘を受け、以来20年以上、この試験を続けている。
本書に作文が掲載されているある新入社員は、ヒビの入った痛々しい母の足と対峙し、改めて母親の苦労に気づいた。そして、今までで一番素直な気持ちで、「ありがとう」と言えたと綴っている。今後は自分が働き親孝行する決意を固めた。
母親がいない人や、遠方に住んでいる人は、「私のお母さん」というテーマで同じように作文を書く。ミャンマー人の新入社員は、故郷で苦労した母に対する感謝と恩返しを誓う作文を提出した。こうした作文からは、同社が何を大切にし、どんな社員を求めているかを感じ取ることができる。
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