人はホッとした後に「イエス」と言いやすい。自分の要望を相手に聞いてもらいたいなら、相手を安心させた後に提案するといい。ポーランドにあるSWPS大学のダリウス・ドリンスキは、道を歩いている人に「財布を落としませんでしたか?」と尋ねる実験を行った。相手が自分の財布があるのを確認し、ホッとしたところで実験アシスタントが慈善活動への寄付をお願いする。
その結果、いきなり寄付をお願いした場合は全体の1割未満の人しか同意しなかったが、財布を落としたかどうか聞いた後では3割以上もの人が寄付をしてくれた。
この心理は、ビジネスにおける交渉の場にも応用できる。たとえば、交渉決裂をにおわせた後、交渉を続けることで相手をホッとさせ、自分の要望を飲ませるようにする。精神的な安心を感じた相手は、ついお願いを聞いてしまうというわけだ。
人は決断に際して、「自分の好きなように決めたい」と思う一方、「面倒だから誰かに決めてもらいたい」とも考えるものだ。
アメリカのラトガース大学のグレッチェン・チャップマンは、大学職員に無料のインフルエンザワクチンの案内メールを送り、どれくらいの人がワクチン接種をしたかを調べた。各職員に送られたメールには2種類あり、片方のメールでは自分の好きな日時と場所を選ぶことができ、もう一方は日時と場所が事前に決められていた(希望があれば変更は可能)。すると、前者の案内を受け取った人のうち実際にワクチン接種をしたのがわずか33%だったのに対して、接種スケジュールがあらかじめ決められているメールを受け取ったグループの接種率は45%だった。
「好きに決められる」ほうが親切なように思えるが、そのほうが煩わしいと思う人も多いのだ。わざわざ選ばせなくてもよいサービスは、案外多いのかもしれない。
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