齋藤氏は、現代はどのような職業でもコミュニケーション力が重視されるようになってきたと指摘する。医者や看護師、弁護士などにとって、患者や相談者は「クライアント」と呼ばれる存在であり、どんな仕事もクライアントがいて成立しているといえる。仕事ではクライアントの要望に応えることが求められ、そのためには対話を積み重ねなければならない。
対話やコミュニケーションは誰でもできると思っているかもしれないが、最低限の技術を身につけ、練習をしなければうまくいかない。もしコミュニケーション部という部活動があったら、自分だけ長く話しすぎない、人の話を聞いて次の展開につなげるといった練習を最初にやることだろう。ほとんどの人はそうした訓練をしたことがないようだ。
齋藤氏は授業で学生に、15秒で自分の話をまとめさせているが、これは「要約力」をつけるための訓練だ。トレーニングを重ねることで、それほど話す才能に恵まれていなくても、ある程度まで対話力を高めることが可能になる。まずは練習をすることが大事だと齋藤氏は語る。
対話力を向上させる方法の一つとして、どういう人と出会って付き合うかが重要だと阿川氏は考える。同じコミュニティ内の人とだけ付き合っていては対話の内容は広がりづらく、思いもよらぬ発想や気づきは生まれにくい。自分とは異なる世界の人の話には驚きが多く、対話の内容もおのずと広がっていく。
齋藤氏も、異なる世界の人との対話は刺激になると同意したうえで、対話力に優れた人と実際に対話する機会を多く持つことが対話力向上への近道だと付け加える。スポーツなどと同様に、自分よりうまい人と一緒にやると、自分も上達するものだ。
齋藤氏は大学に入学したばかりの学生に対して、「対話とは何かを生み出すこと、新しい意味や価値を生成すること」だと教えるという。知っていることを教え合うのは、対話ではなく情報交換だ。語る対象となる素材をお互いに共有したうえで、話すことを通じて知的な発見や気づきがあるものこそが、対話と呼べるのである。
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