人を真に動機づけるものは何だろうか? 世の中には、金銭的報酬で人を動かす誘因理論(インセンティブ理論)があるが、わずかな報酬で、過酷な状況であっても努力を惜しまず働く人が存在するのも事実だ。動機づけ理論(モチベーション理論)によれば、人を真に動機づけるのは、「人に本心から何かをしたいと思わせること」なのだ。
報酬は、安全で快適な職場環境や上司や同僚との良好な人間関係と同様に「衛生要因」にすぎず、仕事への不満をなくす程度の効果しかもたない。一方、仕事の満足度に直結する「動機づけ要因」は、やりがいのある仕事、他者による評価、責任、成長などが含まれる。
著者の同級生の多くは、収入などの衛生要因を基準にキャリアを選んでいたため、経済的に安泰であっても、満たされない思いを抱くようになっていたのだ。元々は社会問題の解決や起業を志していたにもかかわらず、富の誘惑に惑わされる例が後を絶たない。自分が有意義だと思える仕事をしているかどうかが、幸せを見出せる仕事探しの鍵を握ることを肝に銘じておくべきだ。
では、動機づけを与えてくれるキャリアを見つけるにはどうしたらいいか。願望や目標を追求することと、予期せぬ機会を活かすことのバランスを図ることが成否を分けると言ってもよい。戦略の選択肢は、意図的に追求できる機会をもとにした意図的戦略と、予期されない機会から形成される創発的戦略の2種類がある。戦略決定は、限られた資源をめぐって、拮抗するこの2つの戦略からどちらかを選び取っていく、持続的かつ無秩序なプロセスである。これは企業だけでなく個々人の人生選択でも同様である。
若い人や学生で、今後5年間のキャリアを予め計画しておくべきだと思い込んでいる人が多いことに驚かざるを得ない。もしも衛生要因と動機づけ要因の両方を与えてくれて、努力に値する仕事がすでに明確ならば、意図的戦略を取って目標達成に集中するのが理にかなっている。しかし、そうしたキャリアがまだ見つかっていない場合は、道を切り拓く新興企業のように、外へ出て色んな物事を試しながら、自分の能力と関心、優先事項が結びつきそうな分野を見つける創発的戦略を取るのがよい。人生の窓を開け放つことが大切なのだ。
次に、戦略自体の有効性を知るためには、「戦略の成功において、どんな仮定の正しさを証明する必要があるか」を考えるのがおすすめだ。具体的には、戦略の予測の基礎となる仮定を、重要度と不確実性の高い順にリストに並べ、重要な仮定をできるだけ低コストで検証していけばよい。そうすれば、予測を実現する上で本当に必要なことに注力することができ、仮定の軌道修正がしやすくなる。この方法は職業選択においても効力を発揮する。「この仕事で成功するには、どんな仮定の正しさが証明されなくてはならないだろう?」と自問し、仮定を検証しよう。
失敗した事業の根本原因を探ると、長期的成功をもたらす取り組みよりも、見返りが短期的に現れる取り組みを促す意思決定システムが問題であることが往々にしてある。例えばユニリーバでの、ホームラン級の製品に恵まれないという課題には、同社の幹部候補育成プログラムの構造上の欠陥が潜んでいた。
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