2018年のサッカーワールドカップでは、戦略的な負けを選び日本チームの16強入りが決まったときよりも、決勝トーナメントで敗退して8強入りを逃したときのほうが、多くの賛辞が寄せられた。ニュース記事やSNSにおける反応は、海外のものも含めて「醜く勝ち上がるよりも、美しく負けるほうに価値がある」というコンセンサスを感じさせるものが多数を占めていた。
これは一見素晴らしいように見えて、非常に危険なものでもある。
なりふりかまわず勝ちを確実に取りに行くことは「醜い」と言われ、勝ち負け以外のことを大事にすることは「美しい」と評価される。歴史上の人物であれば悲劇的に人生を終えた人の物語が人気を集めるように、人間には悲劇性に美しさを感じてしまう性質があるようだ。
美を感じる脳の領域は前頭前野の一部、眼窩前頭皮質と内側前頭前皮質だと考えられている。眼窩前頭皮質は一般に「社会脳」と呼ばれる領域のひとつであり、他者への配慮や共感性、利他行動をコントロールしている。また内側前頭前皮質は、自分の行動の正誤、善悪を識別する部分であり、いわゆる「良心」を司っている領域であると考えられている。
すなわち、美しい・美しくないという基準と、配慮や利他行動は、本来まったく別の価値であるはずが、脳ではこれらが混同されやすいということが示唆される。
ほかの動物と比べて突出して発達した「社会脳」の領域が、人間をここまで繁殖・繁栄させた源泉ではないかという見方もある。こうした機能によって社会性を維持することが、脆弱な人類にとっては死活問題であった。
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