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本書の要点

  • 科学のエビデンスは、研究方法によって「質の強弱」がある。強弱を見極めるには、専門的なトレーニングが必要。特に「専門家の意見」のエビデンスの質は低いので、メディア等で展開される専門家によるコメントは、発言の出所を確認する必要がある。

  • 生活習慣は個人の意志だけで変えられるものではなく、環境に強く影響される。健康に良い習慣がなかなか身につかなかったり、悪習慣がやめられなかったりするのも、社会経済的な状況や、それに基づく感情に左右されることが多いので、「自己責任」ではない。

  • エビデンスの飛躍に気をつける必要がある。特に健康な食事に関するエビデンスに多い「〇〇を食べるとXXに良い」と言った単純化された考え方は還元主義と呼ばれるものである。科学はそんなに単純ではない。

  • 健康になる技術とは、食事・運動・睡眠・ストレスなどの分野で「WHAT(何を)」「HOW(どのように)」行なったら良いのか、自分の環境や特性(弱点・弱み)に合わせて実践する技術である。

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健康になるための考え方

エビデンスには強弱がある

Aliaksandr Zadoryn/gettyimages

世の中には「こうすれば健康になる」という情報があふれている。その中から、「真」の健康法をエビデンスに基づいて見極め、実践し続けることが、健康のために大切だ。

エビデンスは日本語で「科学的根拠」と訳され、確かな根拠があるものというイメージがあるかもしれない。しかし、実際の科学の世界は意外なほど白黒がはっきりせず、エビデンスには質による強弱がある。

エビデンスはわかりやすくまとめられていると思われるかもしれない。しかし、何十本もの論文を読んでようやくその分野の最新の知見やエビデンスの強弱、すなわち質の良し悪しがわかるようになる。

研究の質を高めるためには、膨大な文献を読み、研究者同士で議論を重ねるといった地道なプロセスが求められる。その一つひとつの研究結果の情報をまとめた科学的な証拠の集合体がエビデンスだ。

日本人の死因は、がん、心疾患、脳血管疾患が半数を占めている。一方、病気の原因をさかのぼって健康を害するリスク(危険因子)に着目する「公衆衛生(パブリックヘルス)」の観点で見ると、たばこ、食事、運動、アルコール、ストレスに関連するものがほとんどだとわかる。

本書は「生活習慣病」という言葉を避け、「慢性疾患」と表現している。「生活習慣病」と言うと、「生活習慣を改善できないことが原因となり、病気になるのは自己責任」とする考えにもつながる。しかし、人々の健康の決め手となる要因は、収入や教育レベルも含めた社会・経済的状況や、住む場所、学校・職場などの「環境」の要因が大きい。

したがって、個人の努力だけで健康的な習慣を身につけるために生活習慣を改善できなかったとしても不思議はない。それが、パブリックヘルスの考え方だ。

健康とは、「単に病気がない状態ではなく、肉体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあり、幸せや生きる意味を見出しながら、満ち足りた状態で生きること」である。その実現のために、健康習慣づくりに役立つ科学的なエビデンスを学ぶことが大切だ。

個人の努力で生活習慣を変えるのは困難

健康のための簡単な生活習慣として、健康的な食生活、定期的な運動、健康的な体重の管理、ほどほどの量のアルコール、たばこを吸わないことという5つを守れている人は少ない。新たな薬や治療法の開発によって様々な病気が治るようになったのに、人々の生活習慣は概して不健康なままである。社会経済的な状況、環境に影響されてしまうため、個人が健康のために生活習慣を変えるのは難しい。

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要約公開日 2023.07.05
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