9000人を調べて分かった腸のすごい世界

強い体と菌をめぐる知的冒険
未読
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強い体と菌をめぐる知的冒険
著者
未読
9000人を調べて分かった腸のすごい世界
著者
出版社
出版日
2023年04月24日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

近年「睡眠の質を上げる」「ストレスを緩和する」などのキャッチコピーのついた商品がよく話題にのぼる。また、それらの商品に含まれる乳酸菌などと免疫力との関係が注目されているのは知っている。でも、どのようなしくみで「体によい」のかはよく知らないという人が多いのではないだろうか。

これら乳酸菌などの「菌」が多く棲んでいるのが、人間の腸である。人間の腸内にはおよそ100兆個の菌が存在しており、人間とは共生関係にある。そして、体内の菌が人間に及ぼす影響については、今まさに世界中で新しい発見が次々生まれている分野だ。本書は、そんな腸と免疫に関する最新情報を、日本の読者に向けてまとめたものである。

著者によれば腸内細菌は、人間と共生していることは知られているもののまだまだ謎の多い「未確認生命体」である。人間とは別の生命体でありながらも、人間が食べるものによっては有益な副産物をたくさん生み出してくれる味方になりうるのが、腸内細菌だ。本書は最新データをひもときながら、健康とされる食べ物がどのように腸にとって有益なのかを探り、菌とよりよい共生関係を築くことを目的としたものである。

本書のサブタイトルには「知的冒険」とある。この名の通り、本書を読むことは健康に役立つだけでなく、菌と体質の関係から新しい気づきを得るわくわく感を与えてくれる。ぜひ、楽しみながら読んでほしい一冊だ。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

國澤純(くにさわ じゅん)
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長
1996年、大阪大学薬学部卒業。2001年、薬学博士(大阪大学)。米国カリフォルニア大学バークレー校への留学後、2004年、東京大学医科学研究所助手。同研究所助教、講師、准教授を経て、2013年より現所属プロジェクトリーダー。2019年より現所属センター長。その他、東京大学医科学研究所客員教授、大阪大学医学系研究科・薬学研究科・歯学研究科・理学研究科招へい教授(連携大学院)、神戸大学医学研究科客員教授(連携大学院)、広島大学医歯薬保健学研究科客員教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構客員教授などを兼任。著書には『善玉酵素で腸内革命』(主婦と生活社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    腸内細菌は人によって異なり、体型から健康状態まで幅広い影響を与える。腸内細菌は代謝産物「ポストバイオティクス」を生み出すことで、体に有用な効果をもたらす。
  • 要点
    2
    腸の役割は多岐にわたり、消化管としての機能、異物の侵入を防ぐ免疫機能、体型決定機能、老化防止機能、メンタルを安定させる機能などがある。
  • 要点
    3
    最高の腸内環境を作るには、「いい菌を摂る」「菌が喜ぶエサを食べる」「ポストバイオティクスを利用する」の3つの戦略で、多くの種類の腸内細菌がバランスよく存在する状態を保つことが重要である。

要約

【必読ポイント!】 体質・能力・体調の決め手

腸内細菌は実は……
marekuliasz/gettyimages

これまで腸活といえば、便秘対策が主流であった。しかし花粉症の増加に伴い免疫に注目が集まると、免疫細胞の多い腸が重要視されるようになった。腸は、口から入れた食べ物を消化・吸収する「体への入り口」である。このとき食べ物だけでなくウイルスや病原細菌、アレルゲンなどの有害な異物(抗原)が混入する。これらを正しく仕分け、吸収すべきでないものが体内に侵入しないよう防御するのが腸の免疫である。

ただ、「体にいい」といわれるものを食べた人全員の体調がよくなるとは限らない。こうした効果の違いの原因の一つに「腸内細菌が人それぞれ違うこと」が挙げられる。たとえば、便秘対策では「食物繊維をとるといい」とされるが、逆に詰まって便秘が悪化する人もいる。これは、腸の中の食物繊維を分解できる糖化菌が不活性な状態か、菌そのものが少ないことが原因である。このほかにも、漢方薬に代表される薬の効きやすさや、同じ食事での太りやすさ、疲れの取れやすさ、ストレスの感じやすさなど、これまで体質の問題と思って諦めていたことについても腸内細菌が関係することが多い。

腸内細菌を味方につければ、体質を望む方向に変えていける可能性がある。私たちの外見的特徴の多くは遺伝子によって決まる。しかし、たとえ同じ遺伝子を持つ一卵性の双子であっても腸内細菌の状態は異なり、太りやすさやアレルギーの有無も異なってくる。身体的な特徴に関して、腸内細菌によって変えられる要素は多いのである。

ポストバイオティクス

ヒトの腸内に生息する菌の数は100兆個に及び、人体を構成する細胞数(30〜50兆個)よりも圧倒的に多い。形状や機能が異なる菌が集団を形成して腸内に棲むことで、「あたかも一つの生命体のようになっていること」を、「腸内細菌叢」や「マイクロバイオーム」「腸内フローラ」などと呼ぶ。

腸内細菌が生み出す代謝産物は「ポストバイオティクス」と呼ばれる。これは、「食品成分を材料に腸内細菌がつくり出す、健康に有用な代謝産物」のことである。代表的なポストバイオティクスは「短鎖脂肪酸」だ。これは「腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖をエサにして生み出す成分」で、そのうち体に有益に働くのは、酪酸、酢酸、プロピオン酸の3つである。これらの短鎖脂肪酸は、有害な菌の発育の抑制、有用菌の発育の促進、腸管のバリア機能の強化といった腸内環境への働きを持つ。また、免疫の調整、肥満の予防、生活習慣病の改善など、全身にも影響を与える。なお、ストレス緩和に有効なγ―アミノ酪酸(GABA)は脳でつくられるが、ポストバイオティクスとして作り出す腸内細菌ががいることもわかっている。

腸内細菌が食物繊維をエサにして短鎖脂肪酸を生み出すには、複数の菌が必要である。菌の多くは単独ではなく、分業制で働く。食物繊維を分解する糖化菌、そこで生成された糖を材料に乳酸を作る乳酸菌、乳酸と酢酸を作るビフィズス菌などが、「『リレー』のようにして少しずつ食物繊維の形を変えながら、最終的に短鎖脂肪酸を生み出している」のだ。

腸内にもダイバーシティ
champpixs/gettyimages

理想的な腸内環境は、「できるだけ多くの種類の腸内細菌がバランスよく存在する状態」であると著者はいう。それにより、生み出される代謝産物も多様になるからだ。そもそもヒトという生命体に多様な菌が共生しているのは、ヒトがこれまでいろいろな環境に住み、多様なものを食べてきたためと言われている。食べたいものがいつでも手に入る現代では、好きなものばかり口にしがちだ。これでは、栄養バランスのみならず腸内細菌も偏ってしまう。よく食べるものを好物とする菌は活性化するが、それ以外の菌は減って腸内細菌の多様性が低下する。

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要約公開日 2023.08.13
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