データ思考入門

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ジャンル
出版社
出版日
2023年02月16日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「日本の夏は暑くなっている」。感覚的にそのように推測している人は多いかもしれない。だが、データを可視化して確認したことはあるだろうか。

著者は2018年7月「日本の夏は徐々に暑く・長くなっている」というヒートマップを公開した。気象庁の公開データから東京の夏の日別平均気温を取得し、縦軸は1870年代から過去142年、横軸は6月から9月、平均気温の高さに応じて青から濃い赤で表現したものだ。当時猛暑だったこともあり多くの反響があったらしい。

著者は報道コンテンツの開発、デザイン、記事執筆を行うデータ可視化の専門家。データを人に伝える際のこだわりとして「データと現実をつなげる」「自分自身の実感と結び付けられること」を大事にしている。要約者もヒートマップを開き、自分が生まれた1987年以降の気温変化を追ってみた。1987年9月30日の平均気温は18.1℃だったが、2011年以降は20℃以上が続いていることがわかる。

可視化されているデータは膨大で全体像だけでは漠然としたイメージが残りがちだ。しかし自分とつながりのあるデータを探す作業をすると、しっかり記憶にも残るだろう。

データの収集・分析・可視化の技術とツールが普及し、こうしたインタラクティブなデータ可視化ができるようになると、データを見て過ごす時間がより楽しくなっていく。多様なグラフとその解説に彩られた本書はデータ可視化を仕事にする人も、データの裏側を知りたい人にも、学びの多い一冊だ。

ライター画像
Keisuke Yasuda

著者

荻原 和樹(おぎわら かずき)
1987年、神奈川県生まれ。筑波大学卒業後、2010年東洋経済新報社に入社。2017年英国エディンバラ大学大学院修了(修士)。データ可視化を活用した報道コンテンツの開発、デザイン、記事執筆を行い、グッドデザイン賞などを受賞。スマートニュース メディア研究所を経て、2022年10月よりGoogle News Lab ティーチング・フェローとして報道機関や大学でデータの読み方や伝え方などのトレーニングを行う。共著に『プロ直伝 伝わるデータ・ビジュアル術』(技術評論社、2019年)。

本書の要点

  • 要点
    1
    データの可視化が容易になり、誤解を招く表現も増えた。危ういデータに騙されないよう「データ思考」が求められている。
  • 要点
    2
    データの編集で重要になるのは「データを絞る」「数字のメタファー」「コンセプト設計」の3つ。変数の尺度に合わせて表現方法を選択するとわかりやすい伝え方になる。
  • 要点
    3
    データの可視化は、データから視覚表現への「翻訳」。意味を踏まえた上で「必然性のあるデザイン」にする。
  • 要点
    4
    わかりやすさは風評被害につながりかねない。ネガティブな情報はあえて解像度を下げる伝え方を検討する。

要約

データ可視化という武器

「データ思考」は必須教養

人は通常、数字の意味合いを容易に理解できない。売り上げの数字やウェブサイトへのアクセス数を読むだけで「今週の売り上げは高止まりしている」「昨日のアクセスはよくなかった」と瞬時に理解できるのは、数字を見慣れているベテランだけだ。ここで役に立つのが「データ可視化」だ。データを何らかの図表に変換したものはすべてデータ可視化に該当する。データ可視化は「見せる」だけと誤解されがちだが、最終目標は「直感的に理解させる」ことであり、インタラクティブな表現も活用される。ビジネスではTableauやPower BIといったBI(ビジネスインテリジェンス)ツールが普及し、データ可視化を見る・作る機会は大幅に増えた。一方、制作が簡単になったことで不適切なデータ可視化を見る機会も増えた。

これに対抗するためにはデータのリテラシーを身につけることが欠かせない。それを本書では「データ思考」と呼ぶ。データ思考を高め、危ういデータ可視化に騙されないようにするには、そもそもデータをどう可視化すべきかを学び、「作る側」の視点を学ぶことが最も重要だ。

本書では「社会のためのデータ可視化」を主に扱う。報道コンテンツやアート作品など、広く社会にデータを伝えるためのものだ。興味の薄い人に見てもらうため「正確に伝わる」「わかりやすい」に加え、データを見ることそのものが楽しいと感じてもらえる工夫を用意する必要がある。

データと現実をつなぐ
kasayizgi/gettyimages

データを適切に可視化するには、まず数字のデータを丁寧に読み解き、隅々まで理解することが必要だ。データの定義の確認から始めるのが基本となる。何を集計しているのか、何がデータに含まれ、何が含まれないのかをクリアにする。

データの集計方法も確認しておくべきポイントだ。たとえば「訪日外客数」は、入国手続きを受けるごとに1人と数える。日本への出入国は必ず飛行機か船を使うため、カウントの重複で全体の傾向が歪む可能性は低い。

対象を全て調査する全数調査か、一部だけ調査する標本調査かの違いにも注意を要する。アンケート形式で回答を募る場合、答えやすい項目とそうでない項目で大きく回答率が異なることがある。未回答の割合を見ておくことをお勧めする。

データを読み解く作業の最終目標は「データと現実をつなげること」だ。訪日外客統計では、現実に1人の外国人観光客を目にしたとき、その人がデータ上でどのように扱われるのか。数字の変化が現実世界で何を意味するのか。具体的な個別のケースを数字と結びつけ、照らし合わせることが求められる。

数字が数字でしかない、目の前の生活と結びつかない事態を避けるために、データを読み込み、腑に落ちるまでデータを理解しよう。

データの組み合わせによる印象操作

ここから2つ以上のデータを読む際の工夫や注意点を解説する。2つ以上のデータを同時に提示することは、良くも悪くもユーザーに因果関係を強く示唆することに注意しなければならない。

偏った印象を与えるデータの中には見抜くのが難しいケースもある。日本人男性の喫煙率と肺がんの死亡率を、時系列でプロットしたグラフを例にする。喫煙が肺がんなどの疾病の引き金になることは広く知られている。

しかしこのグラフからは、喫煙率が1965年から低下し続ける一方、肺がんによる死亡率は増加の一途を辿っているように読み取れる。予備知識なくこのグラフを見せられると「喫煙率が下がると肺がんは増える」という結論を導いてしまうかもしれない。

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要約公開日 2023.08.19
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