行動経済学が最強の学問である

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出版社
SBクリエイティブ

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出版日
2023年06月08日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

歴史を学ぶ際、年号と出来事を丸暗記しても、その背景にある時代の流れや人々の価値観までは理解できない。

それは本書で取り扱う行動経済学においても同じだ。「ナッジ」「ファスト&スロー」「プロスペクト理論」などを単独で理解していても、これらがどのように影響を与え合っているかまでは、多くの人がきちんと捉えられなかったのではないだろうか。

本書は、アカデミックの世界においてあと100年はかかると言われた行動経済学の体系化を、ビジネスパーソン向けに整理した著者のチャレンジの成果である。著者の整理する枠組みに従って、バラバラだった行動経済学の主要理論を俯瞰できるようになり、より一層行動経済学の本質を掴むことができるだろう。「行動経済学」博士としての知識を武器に、欧米を中心とした様々な業界の企業をコンサルティングしてきた経験が存分に活かされている。多くの論文・研究もベースにした重厚な内容で、納得感高く読み進められるはずだ。

今、世界は行動経済学という新しい学問に興味津々だ。FAANG(Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Google)のような巨大テック企業はこぞって行動経済学を専攻した学生を囲い込み、それに歩調を合わせるかのようにアイビーリーグなどの有名大学で「行動経済学部」が新設されている。ビジネスパーソンにとってもはや不可避の学問、世界が注目する行動経済学の扉をあなたも開いてみてはいかがだろうか。

著者

相良奈美香(さがら なみか)
「行動経済学」博士。行動経済学コンサルタント。
日本人として数少ない「行動経済学」博士課程取得者であり、行動経済学コンサルティング会社代表。
オレゴン大学卒業、同大大学院 心理学「行動経済学専門」修士課程および、同大ビジネススクール「行動経済学専門」博士課程修了。デューク大学ビジネススクール ポスドクを経て、行動経済学コンサルティング会社であるサガラ・コンサルティング設立、代表に就任。その後、世界3位のマーケティングリサーチ会社・イプソスにヘッドハントされ、同社・行動経済学センター(現・行動科学センター)創設者 兼 代表に就任。現在は、ビヘイビアル・サイエンス・グループ(行動科学グループ、別名シントニック・コンサルティング)代表として、行動経済学を含めた、行動科学のコンサルティングを世界に展開している。
まだ行動経済学が一般に広まる前から、「行動経済学をいかにビジネスに取り入れるか」、コンサルティングを行ってきた。アメリカ・ヨーロッパで金融、保険、ヘルスケア、製薬、テクノロジー、マーケティングなど幅広い業界の企業に行動経済学を取り入れ、行動経済学の最前線で活躍。
自身の研究はProceedings of the National Academy of Sciencesなどの権威ある査読付き学術誌のほか、ガーディアン紙、CBSマネーウォッチ、サイエンス・デイリーなどの多数のメディアで発表される。また、国際的な基調講演を頻繁に行い、その他にもイェール大学やスタンフォード大学、アメリカ大手のUberなどにも招かれ講演を行うなど、行動経済学を広める活動に従事している。
他、ペンシルベニア大学修士課程アドバイザーを務める。

本書の要点

  • 要点
    1
    行動経済学の本質である「非合理な意思決定」は、「認知のクセ」「状況」「感情」の3つの要因に分けられる。
  • 要点
    2
    「認知のクセ」を生む理論に「システム1 vs システム2」があり、迅速な判断につながる「システム1」は間違った意思決定につながりやすい側面もある。
  • 要点
    3
    天候や周囲の人の有無、物の位置、多すぎる情報などの「状況」が私たちの意思決定に影響を与える。その状況の制御は難しい。
  • 要点
    4
    「淡い感情」である「アフェクト」は、人を動かすうえで重要な意味を持っている。

要約

愛しき非合理な人間

行動経済学の本質
A Mokhtari/gettyimages

経済学と心理学という異なる学問を融合させた行動経済学の本質とは、「人間の『非合理な意思決定のメカニズム』を解明する」ことである。

現在の経済学の基本を確立したのはアダム・スミスだ。「神の見えざる手」によって、市場経済では適切な資源配分がうまく達成されるというその理論には、「市場メカニズムの中で動く人間も、常に理性的で正しい判断をする」という前提がある。

しかし、「市場経済は完全に合理的ではない」ことを私たちは経験で知っている。わかりやすい例を見てみよう。米国国勢調査局によれば、「55~66歳の人の5割が退職後の蓄えを保有していない」という。積立ては明らかに将来の自分を支えるのに、多くの人が確定拠出年金などに加入したり、うまく資産を増やしたりできない。

合理的な個人を前提とする限り解けないこの謎について行動経済学は、人間の持つ3つのバイアスで説明する。1つは「イナーシャ(慣性)」で、面倒を避けて「このままでいいや」とするバイアスのことだ。2つめは「損失回避」で、未来の貯金が1万円増えるプラスの感情より、今月の1万円が減るマイナスの感情のほうが大きいことを指す。もう1つは「現在志向バイアス」で、「今この瞬間」に重点をおき、「未来の自分」を他人事のように感じることを言う。これらのバイアスの影響で、合理的な判断ができなくなる。

「ナッジ理論」でノーベル経済学賞を受賞したセイラー氏は、逆にそのバイアスを有効に利用して、企業年金への加入率を上げることに成功している。行動経済学は「非合理な行動を変えることもできる」のだ。

著者は、行動経済学の本質である「非合理な意思決定」を、「認知のクセ」「状況」「感情」の3つの要因にカテゴライズしている。「認知のクセ」とは脳の情報処理方法にある「歪み」だ。「状況」は「脳の外」で私たちに影響を与えるものを指す。そして、不安や怒りなどの「感情」も重要なファクターである。これらが複雑に絡み合って私たちは非合理な意思決定をするのだ。

【必読ポイント!】 認知のクセ

システム1 vs システム2

「素直に処理してはくれない」人間の情報処理では、「システム1」と「システム2」という2つの思考モードが使い分けられている。行動経済学の父、ダニエル・カーネマンは、直感的で瞬間的な判断である「システム1」を「ファスト」、注意深く時間をかけた判断である「システム2」を「スロー」と呼んだ。これは、「認知のクセ」に関する理論のなかで、最も基本となるものである。

システム1がデフォルトではあるが、システム2より優位ということはなく、これらは無意識下で連動している。全てをシステム2に頼ると、身動きが取れなくなって脳がパンクしてしまう。一方で、システム1は思い込みや偏見を招き、間違った意思決定につながることもある。

ある研究では、人間は、「疲れているとき」「選択肢が多いとき」「時間がないとき」などにシステム1を使いがちだということが示されている。忙しく、多量の情報にさらされるビジネスパーソンは、システム2のエンジンである「注意力」を損ないがちなのだ。

「五感」も認知のクセになる

脳の中だけでなく「身体的認知」も認知のクセを生み出す。方向や長短などの抽象的な概念を具体的なもので喩えることで理解を促進する「概念メタファー」もその一つだ。

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要約公開日 2023.11.19
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