文章を書くときに大事なのは、最後まで読んでもらえる文章を書くことだ。読んでもらえない文章は、「紙の上のインクのしみ、ディスプレイのドットの集合」にすぎない。
途中で読むのをやめたくなる文章は「不正確な文章」「わかりにくい文章」「不快な文章」「退屈な文章」の4つに整理できる。
「不正確な文章」は、読んでいて違和感が残る。正確さは「文章の質を保証するもので、読者に安心感を与えるもの」だ。
意味があいまいであったり難しかったりする「わかりにくい文章」だと、読者が「自分の都合に合わせて解釈したり読むのを放棄してしまったり」する。読者の立場にたって、わかりやすく書くようにしよう。
失礼な内容や無神経な内容を含む「不快な文章」を読むと、読者は強い反発を抱く。読者への思いやりをもった文章を書きたい。
間違ったことは書いていなくても、ありきたりで誰にでも書けるような「退屈な文章」は、続きが読みたいという気分にならない。執筆者の創意工夫、執筆者独自の発見があってこそ、文章は面白くなる。
正確で、わかりやすく、配慮があり、工夫を凝らした文章。それこそが本書が目指す「ていねいな文章」だ。
語彙力が少なく見えると、知性に欠け、勉強や仕事ができないような印象を与えてしまう。そういう人は同じ言葉を繰り返し使っている。話し言葉では「すごい」「やばい」といった形容詞が頻出する。
書き言葉で注意すべきは名詞の使い方だ。たとえば、「仕事」というような便利な言葉でなんでも済ませてしまうと、意味の伝わりが弱くなる。
「今朝も早朝、この時間から母は仕事に出ている」という文での「仕事」に、別の表現を考えるとしたら、どんなものがあるだろうか。この場合は仕事場を指しているので、「職場」と言ってもよいし、場所の種類によっては「現場」「オフィス」という言葉も候補になる。
「うちの夫は脱サラをして自分で仕事を始めた」という文の「仕事」という言葉はどうだろうか。これはつまり、「事業」を始めたということだ。外来語を使って「ビジネス」としてもよいだろう。「仕事を始めた」を「起業した」と言い換えてもよい。
繰り返し使ってしまうような言葉はたいてい多義語だ。それをあえて避けて、より適切な語彙を選択すると、文章の正確さと信頼度が増す。語彙の選択力を身につけるには、インターネット検索を利用するなどして、文脈に合う単語をまめに調べるのがおすすめだ。
誤解が起こる典型的な原因の一つは、言葉足らずである。たとえば、「ここ数日、ウイルスに感染してしまって、対処できなかったのです」という文は、2通りの解釈が可能だ。1つは、インフルエンザウイルスやコロナウイルスなどの病原体に感染してしまった場合、もう1つはコンピュータウイルスに感染してしまった場合だ。書き手にとっては自明なため、省略可能だと思ってしまったのだろう。だが、読み手の理解を考えるなら、どちらのウイルスなのかを明記したほうがよい。
著者は以前、こんな文を読んでぎょっとしたことがあるという。
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