1フレーズ経営学の表紙

1フレーズ経営学


本書の要点

  • 戦略という軍事用語は1950年頃から企業経営において使われるようになった。戦争はその是非はともかく、経営に多くの示唆をもたらしている。『戦争論』や『失敗の本質』などの名著は経営戦略にも活かされている。

  • 内部環境か外部環境か。どちらを重視するべきか、という問いに答えはない。企業の置かれている状況は個別的なものであり、あらゆる状況に適用可能な経営戦略は存在しないのである。

  • 企業文化は地道に積み上げていくものである。だからこそマネしづらく、優位性が保てる。しかし、意思決定の遅さなどによって革新に二の足を踏むという欠点がある。

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時代と戦略

――戦略とは捨てることなり。

IvelinRadkov/gettyimages

戦争はその行為の是非はともかく、企業経営との類似性ゆえに経営者たちから注目され続けてきた。もとは軍事用語であった「戦略(strategy)」という言葉は、1950~60年代において企業経営の世界で広く使われるようになった。軍事力の衝突には「戦争」「戦略」「作戦」「戦術」「実行」などのレベルが存在し、これらにはそれぞれ「目的」が存在する。カール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』(1932)では「戦争目的」が議論され、「戦争は相手の殲滅だけが目的ではない」とされた。一般的に、目的をどれだけ絞り込んでいくかが戦いの行方を左右し、目的が曖昧なら敗北、明確な場合は勝利するとされる。『失敗の本質』(1984)で野中郁次郎らは第二次世界大戦における日本軍の失敗を研究し、そこから組織への教訓を抽出した。先の大戦において、日本軍は当初より破竹の勢いで勝利を重ねていたが、ミッドウェー作戦において大敗、それを機に敗戦の一途をたどることとなる。本海戦における日本軍は「島の攻略」と「艦隊の撃滅」という二重の目的を敷いていた。他方、米軍は徹底して艦隊同士の勝敗に拘泥して勝利を収めた。米司令長官は部下に、島は占拠されても取り返せばいい、空母以外には攻撃するなと繰り返し言い聞かせ、目的の一本化を徹底した。戦略というのは、何に集中すべきかを組織内で共有し、同時に「何かを捨てる」ということなのだ。そして戦略レベルの失敗は、作戦や戦術のレベルでは挽回できない。二兎追うものは一兎も得ず。このことわざは経営の世界でも有効だ。目的を絞らなければ、一兎も得ることはできない。

――その企業能力は、希少か、マネしづらいか!

マイケル・ポーターが『競争優位の戦略』(1985)で示したバリューチェーンは企業の活動を、主活動5つと支援活動4つの9つに区分した。そしてポーターは企業の内部に目を向ける。企業が成功するには、魅力のある市場を探し当てるだけでは不十分だ。他社よりも優位に立つには企業能力(ケイパビリティ)が必要だと気づいたのである。この概念はその後長らく使われることになったが、ポーターの考えるケイパビリティの位置付けはあくまで従属的かつ限定的だった。

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要約公開日 2024.03.08
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