指導者の条件

人心の妙味に思う
未読
指導者の条件
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人心の妙味に思う
未読
指導者の条件
出版社
出版日
1989年02月15日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

丁稚奉公から立身出世し、一代で松下電器産業(現・パナソニック)を築いた松下幸之助氏。「経営の神様」として信奉者も多い人物だ。そんな松下氏の考える「指導者としての条件」をまとめたのが本書である。

その項目は102カ条にも及ぶ。1つあたり見開き2ページで、かつ非常に伝わりやすい文章で書かれている。それぞれ歴史上の人物のエピソードを織り交ぜた構成になっており、松下幸之助氏の思考の道筋を追いやすい。経営手法というよりは「指導者たるもの、こうあるべし」という内容で、日々の心がけから考えさせられる。

たとえば熱意を持つことの重要性について松下氏は、「なんとしてもこれをやりとげようという熱意があって、はじめて知恵もわき工夫も生まれてくるのである 」とした上で、「指導者は才能なきことを憂うる必要はないが、熱意なきことをおそれなくてはならない 」と書いている。熱意は人を動かす原動力だ。熱意のある人のところには、自然と人材が集まってもくる。商売にせよ仕事にせよ、結局は熱意こそが重要であって、才能がないことを悲観せずに精進すれば道も開けていく。そのようなことを伝える一節だ。

単行本の初版発行は1975年であり、ずいぶん昔のものではあるが、日本が経済大国として世界に大きな存在感を示していた時代の本であることを考えると、今の日本人が学ぶべき点も多いと感じた。いまの日本人が忘れてしまった、「日本人の美徳」を再認識するには最適な本といえよう。

ライター画像
安齋慎平

著者

松下幸之助(まつした こうのすけ)
パナソニック(旧松下電器産業)グループ創業者、PHP研究所創設者。
1894(明治27)年、和歌山県に生まれる。9歳で単身大阪に出、火鉢店、自転車店に奉公ののち、大阪電灯株式会社に勤務。1918(大正7)年、23歳で松下電気器具製作所を創業。一代で世界的な企業グループ(現パナソニックグループ)を築き上げた。
1946(昭和21)年には、「Peace and Happiness through Prosperity =繁栄によって平和と幸福を」のスローガンを掲げてPHP研究所を創設。1979(昭和54)年には、私財70億円をとうじて、次代のリーダーを養成する松下政経塾を設立した。1989(平成元)年に94歳で没。

本書の要点

  • 要点
    1
    大事を成し遂げる際に一番必要な心がけとは「命をかける」ことだ。その思いがあってはじめて、どんな困難にも対処できる。
  • 要点
    2
    志を立て、その達成を目ざして仕事をしていくことで、あなた自身に力強さが生まれる。
  • 要点
    3
    結局のところ、最後に人を動かすものは指導者の「誠実さ」であることを知るべきである。

要約

命をかける覚悟

日々の仕事に命をかけよ

日露戦争後のポーツマス講和会議にて活躍した、小村寿太郎の話である。彼が政務局長だった時、閔妃事件が起こり、その後始末のために小村は朝鮮に派遣されることとなった。そこで、勝海舟にアドバイスを請うた。

勝は、「死生を意にとめたら仕事はできない」「身命をなげうち、真心をこめてやるという腹さえきまっていれば、あとはその場合その場合で考えたらいい 」と語った。これを聞いた小村は大いに勇気づけられ、無事に難局を乗り越える。

結局のところ、大事をなす者の最も根本にある心がけとは「命をかける」ことだろう。それほどの思いこそが、どのような困難にも対処するための力となる。

とはいえ、なかなか命をかける気概にまでは至れないのも人情だ。しかし、考えようによってはつねに死ととなりあわせだとも言える。用心で防げるところもあるが、交通事故で命を失うのは運命的なものだ。道路を歩くことも、車を運転することも、単にそのことを意識していないだけで、ほんとうは命がけなのである。

であれば、ある使命感のなかで興味を持って取り組んでいる仕事に対し、命がけであたることはそこまでむずかしくもないのではないか。特に指導者には、そのような覚悟が必要であろう。

危機にあっても冷静でなければならない

小牧・長久手の戦いにおける堀秀政
Cuckoo/gettyimages

秀吉と家康が小牧で戦った時、秀吉は2万の兵を率いて、家康の本国である三河を奇襲しようとした。しかしその作戦が家康に筒抜けになり、長久手で徳川の追撃を受けてしまう。秀吉は前途ばかりに気を取られ、敵にあとをつけられていることにまったく気がつかなかったのだ。第一隊の池田恒興、第二隊の森長可が討ち死にするなどの大敗北を喫することとなる。

一方、堀秀政率いる第三隊だけは違った。徳川方の襲撃にも慌てず、鉄砲隊を並べて反撃を行い、徳川方を敗走させることに成功した。しかも秀政は、なおも追撃しようとする部下を戒め、兵をまとめて秀吉の本陣に帰ったという。

非常時こそ冷静であるために

この秀政の態度は、非常時において指導者はどうあるべきかをわれわれに教えてくれる。

誰でも困難に直面すると動揺するものだ。そのような時に、指導者が誰よりも先にあわてるようでは、従う人たちの間に不安な雰囲気を伝染させ、収拾のつかない事態に陥ってしまう。

指導者が落ちついていて、淡々と物事をこなすことができれば、周囲の人たちもみな、「その姿に安心感を覚え、勇気づけられる」はずだ。それが全体の動揺と混乱をしずめることにつながる。

指導者であっても、内心に不安や心配を抱えることがあるのは当たり前だ。それでも、それをすぐに態度に表してはいけない。周囲は指導者の態度に敏感なものである。不安や心配はすぐ全体に伝わり、士気を低下させてしまう。

だからこそ、指導者は日ごろから冷静さを保てるよう、みずから心をきたえることが重要だ。そして、どのような難局においても、落ち着いた態度で対処できるよう心がけていきたい。

公明正大でなければならない

楊震という高潔な政治家

中国・後漢の時代に楊震という政治家がいた。ある夜、かつて引き立てたことのある王密という人物が訪ねてきて、昔話などをしたあと、大量の黄金をとりだして楊震に贈ろうとしたが、楊震はことわった。王密は、「こんな夜中で、この部屋には私たち2人しかいないのですから、誰にもわかりませんよ 」とさらに勧めてくる。楊震は次のように返した。「君は誰も知らないというがそうではない。まず天が知っている。地も知っている。それに君と私自身が知っているではないか 」。

楊震は、その後よりいっそう人格を讃えられ、中央政府の高官に抜擢された。

人間には弱さも良心もある
Annandistock/gettyimages

人間は弱いもので、だれも見ていないと思えばつい誘惑にかられて悪事に手を染めてしまうものだ。一方で、よくないことをしても全く平気な顔をしていられるわけでもない。他人の目をいくらごまかせても、自身の良心が許さないからだ。

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要約公開日 2024.03.23
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