「パーパス」という言葉は、「目的」や「存在意義」と訳されることが多いが、著者は「志」という言葉を訳語として当てる。それは、「内側から湧き出てくる強い思いこそがパーパス」だからだ。この、パーパスを原点とする「パーパス経営」が、世界的に注目されている。
今でも、ミッションやビジョン、バリューを掲げている企業は多いが、パーパスは、ミッションとは異なる。ミッションとは「◯◯をしなくてはならない」という「大義」であり、義務的なものになりがちだ。
一方、パーパスは、「私たち」を主語として、「自分たちのやりたいこと、ありたい姿はどういうものか」というように、自分たちのやりたいことと社会の思いが重なるところに湧き出てくるものだ。そのため、「パーパスを仕事の中心に据えると、仕事そのものが『ワクワク』するものに」なるだろう。
パーパス経営が注目されているのは、「行きすぎた資本主義の見直し」のためだ。モノやカネばかりを主軸とした経営が限界を迎えている今、必要とされるのは、ヒトを中心に据えた経営なのだ。
日本には江戸時代から明治、戦後にかけて、ヒトを経済や企業活動の主体とする、「人本主義」と呼べる日本型システムがあり、成長の原動力となってきた。バブル崩壊後、人本主義は時代遅れのものとされたが、現代ではむしろ、ダイキンやデンソーのように、「人本主義を貫き通した日本企業こそが高い業績を上げている」。
いま、市場には3つの変化が起きている。1つは顧客市場で起きている「ライフ・シフト」。人生100年時代の到来により多くの人が長く、広いスパンでものを考えるようになった。そして、人財市場で起きている「ワーク・シフト」。優秀な人ほどフリーランサーとして働くようになり、企業には多様な働き方が求められている。そして、金融市場で起きている「マネー・シフト」。ESG投資のように世の中のためになるものへお金が動く。これらの変化に対応できるものこそ、パーパスすなわち「志」という言葉を冠した「志本主義」、「志本経営」なのだ。
日本では、いまだに利益至上主義から抜け出せずにいる企業も多い。一方で、リーディングカンパニーではパーパス経営を実行しているところも増えている。
株価の大暴落を経験したソニーは、2012年に社長に就任した平井一夫氏が、「KANDO(感動)」をパーパスとして、ソニーを「感動を届ける会社」と再定義し、劇的なV字回復を果たした。
京都の計測機器大手である堀場製作所のパーパスは、「おもしろおかしく」だ。同社は、自動車関連の特定の装置で世界シェア80%を占めるグローバル企業である。人生で多くの時間を過ごす「会社での日常」としての仕事を「仕方なくやるもの」にするのはもったいない。「おもしろおかしく」働くことは充実につながるだけでなく、企業の業績にもつながるのだ。
新潟に本社を置くアウトドアブランドの中小企業「スノーピーク」は、「人間性の回復」というパーパスを掲げる。都会の人たちが自然に触れることで人間性が回復できるようなアウトドアグッズを開発し、その哲学に共感するファンも生み出した。
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