「人的資本」とは、英語のHuman Capitalを日本語に訳した言葉である。この言葉は、「近代経済学の父」と呼ばれるアダム・スミスが、道具や建物、土地などと並んで固定資本の一つとして提唱したもので、「人生経験によって育まれるスキル、器用さ、判断力」を意味する。
現代では「個人が持つ知識や技能、能力など、付加価値の源泉となる資本」を指し、ビジネスやマネジメントの世界で使われるようになっている。つまり「人的資本経営」とは、企業活動の付加価値の源泉となる「人的資本」に積極的に投資して、企業価値を向上させる経営のことである。
これまでも使われてきた人的資本という言葉が、今なぜ注目を集めているのか。それには、(1)持続的な企業価値の向上につながるため、(2)無形資産の重要性が高まっていること、(3)技術革新によってHRテクノロジーが活用されるようになったこと、という3つの理由があると考えられる。
人的資本経営の特徴は、人材を消費する「資源」ではなく、投資によって価値を高められる「資本」として捉えることである。人材を「費用=コスト」として見なすと、人件費は会計上、会社の利益を押し下げる「コスト」として処理される。一方、人的資本経営では、投資を行う資産と見なすことで、人材の価値を最大化させてリターンを生み出すことを目指す。そのため、人事担当者は人材への投資がどのくらいリターンに結びついているかを測定し、経営者が経営判断をすることになる。
人的資本は、知識を拡大し利用することで自ら発展していく点や、移動・共有が可能な点で、工場などの有形資本と異なる特徴がある。つまり、人的資本経営が上手な企業は、継続的に企業価値を向上させることができる反面、下手な企業は、人材を資源として消費してしまい長期的な成功が見込めなくなるのである。
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