著者が所属していたニュース専門のコント集団「ザ・ニュースペーパー」は落語芸術協会の協会員だったため、著者も寄席の高座に上がる機会があった。ある時、直前までネタが決まらず、いつもより長い3秒ほどのお辞儀をしてからネタを始めたら、これまで以上にウケがよかった。
この「丁寧なお辞儀」のように、第一印象で「しっかりしてる」「丁寧」「誠実」という印象を与えると、笑いのハードルが下がるようだ。これは、会話においても同様である。とにかく熱意と勢いを重視し、テンションを上げて話し始める人もいるが、日常生活ではこれは失敗のもとだ。特に初対面では温度差もあるため、確実にスベる。最初はスローペースで、静かにスタートしたほうが聞いてもらいやすいし、面白さへの伸びしろも確保できるはずだ。
会話の出だし、アイスブレイクは難しいが、これに使える言葉として、「木戸に立てかけし衣食住」というものがある。「季節」「道楽(趣味)」「ニュース」「旅」「天気」「家族」「健康」「仕事」「衣服」「食事」「住まい」の頭文字をとったものだ。なかでもビジネスパーソンが注目すべきは「ニュース」である。
ニュースは、新聞やテレビ、ネットなどの側から情報を提供してくれる。ニュースを全く知らないという人は極めて稀なので、共通の話題にしやすく、したがってお互いの距離を縮める助けになる。ただし、悲惨な話題を選ぶのは避けたい。アイスブレイクは場の雰囲気を和ませ、次の会話への助走とすることが目的だ。いきなり悲惨なニュースを選ぶことはリスクにもなりうる。
著者は緊張しやすい性格だという。深呼吸やストレッチなどを試してもうまくいかなかったので、むしろ「人前で話す時は緊張している状態がデフォルト」と考えるようになったそうだ。舞台で田中という人の役を演じようとした時に緊張してしまったら、田中の設定を「いつも緊張している人」にしてしまう。人は、自分の緊張が伝わってしまうと途端に恥ずかしくなるものだが、「演じている役の人」が緊張していることにすれば、それが知られたところでダメージを受けにくい。
それに、「見られている」側だと思うから緊張してしまうので、「見ている」側になればよい。「緊張している」というのは感情だ。この感情を容易にコントロールすることはできないが、「見る」という行動のほうは変えられる。注意深く観察するイメージで相手を「見ること」に集中すれば、余計な感情、つまり緊張が入り込む余地は減っていく。
大勢の前で自然に観察するためには、1人に話しかけるようにすればよい。1人を相手にしようとする行為は「会話」と同じであり、相手の表情や態度も受け取りやすい。「この人にわかってもらおう」という熱意も持てるし、それによって聞き手を観察することに自然と集中できる。この方法は面接試験など様々な場面にも応用できるはずだ。
「どうしたら笑いがとれる話ができるか」を教えてほしいという要望はとても多い。しかし、予想もつかない突飛な言動を思いつく「ボケ」はセンスの側面が強く、誰もができるものではない。もちろん「ツッコミ」にもセンスは必要だが、練習であるレベルまではカバーできるので、ボケよりはハードルが低い。ボケがアクションなら、ツッコミはリアクションだからだ。ツッコミはボケの面白いポイントを見つけることから始まる。「何気ない相手の言動から、違和感や面白さを見つけ出す」センスを磨こう。
そもそもツッコミとは、「『通訳』して『橋渡し』する行為」である。たとえば、「まだ6月なのに気温30度だって。このままいくと12月には50度を超えるね」というボケに、「そんなわけあるかっ!」とツッコミを入れるベタなやり取りを考えよう。これは、「この人、変なこと言ったよ」という「橋渡し」と、「12月になれば逆に寒くなるのをこの人はわかっていない」という「通訳」をしていることになる。通訳して橋渡しをする「ツッコミマインド」を実践すれば、失礼な内容にならないし、ツッコまれた相手も面白さが際立ってうれしくなる。
「ツッコミマインド」は、周囲を凍りつかせるダジャレを突然言い出す人に対しても応用できる。
3,400冊以上の要約が楽しめる