人間の欲求にはさまざまなものがある。三大欲求と呼ばれる食欲、睡眠欲、性欲を筆頭に、承認欲求や物欲、何かを壊したくなる破壊欲、他者を守りたいという養護欲など、挙げていけばきりがない。
欲求の方向性は、2つに分かれる。過去の経験をもう一度経験したいという欲求と、そして未知の経験をしたいという欲求だ。2つは脳に異なる刺激を与える。
また、欲求は良い欲求と悪い欲求にも分けられる。つまり、達成されることによって自分や周囲のためになる欲求と、逆に破滅に追いやる欲求だ。
それから、欲求というと「○○したい」という能動的なものを思い浮かべるだろうが、「○○したくない」という受動的なものも欲求である。勉強したくない、仕事をしたくない、というのも立派な欲求というわけだ。この欲求は、過去に苦痛や不快を感じたことがよみがえってくるため、もしくは脳の未発達のパーツを使うことになるために起こる拒否反応が影響している。「やりたくない」と強く感じたときは、どちらに原因があるか考えてみると、自分との向き合い方がわかるだろう。
人間の脳は、奥の部分になればなるほど、生命に関わる大事なことを司るようにできている。最奥の脳幹は呼吸や血圧の機能など、その上にある視床・大脳辺縁系は感情や記憶、行動、学習などをコントロールしている。さらにそれらを覆っているのが、動物にはない、人間だけが持つ「新しい脳」、大脳皮質だ。この部分は思考や運動など高度な機能をコントロールしており、生きていくために必要な欲求以上の複雑な欲求は、ここから生まれている。
このような仕組みの私たちの脳には、「超脳野」と呼ばれる場所があり、これらはとくに複雑な情報処理をしている。超脳野は3つの場所にあり、どれも30代以降にそれぞれの能力を伸ばすという。とくに、実行力や判断力を司る「超前頭野」は、50代を過ぎてから成長し、高齢になっても、元気な人には委縮が見られることが少ないという。「脳は死ぬまで成長し続ける」のだ。
超前頭野が活発に働く人に見られたのが強いストレス耐性だ。欲求を強い意志で実行する力を生み出すのが超前頭野であり、欲求が大きく脳の発達に関わっているといえる。
私たちの生きている社会は、欲求をたやすく見失ってしまう構造になっている。
和を重んじる日本社会では、皆の意見に合わせて自分の欲求を押し殺したり、他の人の欲求に同調する流れになったりすることも多い。
一方、街やメディアには欲求を刺激する情報があふれかえっている。コンビニに入れば何かしら欲しいものが見つかってしまうし、CMやみんなが観ているからという理由に流されて映画を観てしまうこともあるだろう。
本来ならば自分にとって必要な欲求、内面からわき起こってくる欲求を見極めなければならないのに、現代社会においては、偽物の欲求に踊らされ、何がしたいのかわからなくなってしまいがちだ。
欲求を刺激する情報の宝庫といえるのが、インターネットだ。実はインターネットは脳に悪影響をもたらしかねない。
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