空腹の学生に焼きたてのクッキーの香りが広がっている部屋に入ってもらい、一部の学生はクッキーやチョコレートを食べてもいいと言われたが、不運な何人かはラディッシュ(廿日大根)しか食べられない、という実験を行った。ラディッシュしか食べられない学生はクッキーの誘惑と戦い、何とかクッキーを口にする誘惑に逆らうことができた。
その後、学生たちは別の部屋に連れて行かれて、図形パズルを解くように指示される。このパズルは解けないようにつくられており、このテストの目的は、解くのを諦めるまでの時間を測るというものだった。その結果、クッキーとチョコレートを食べられた学生たちはおよそ20分間パズルに取り組んだが、ラディッシュしか食べられなかったグループはたった8分間でパズルを解くのをやめてしまった。クッキーの誘惑に逆らうために意志力を使ってしまったため、パズルに取り組むエネルギーが減ってしまったのだ。
同様に、夫婦喧嘩がおこる原因も意志力が関係している場合がある。仕事で意志力を使い果たしていると、職場で消耗しきってしまうため、そのしわ寄せが家庭にきてしまう。そうした場合には、仕事を早めに終わらせて家に帰るべきだ。
刺激を強く感じたら、意志力が弱まり、自我が消耗している証拠かもしれない。意志力が弱まっている人は、悲しい映画を見るとより悲しく感じ、楽しい絵を見るとより楽しい気持ちになる。酒やたばこの依存症患者は、酒やたばこをやめているときに、それらへの欲望をふだん以上に感じることになる。依存症の再発率が高いのは当然のことなのだ。
また、我慢したあとは次の誘惑に負けやすい。試験期間中の学生は自己コントロール力が低下しているため、生活上の好ましい習慣をすべてやめてしまう。運動をしなくなり、たばこの本数やジャンクフードの消費量が増えた。電話の返信や掃除の実行率が低下した。寝坊や衝動買いの傾向も高くなり、短気で怒りや失望を感じやすくなった。こうした負の感情は試験のストレスによるものだと一般的に誤解されているが、実はストレスによって意志力が消耗し、その結果として負の感情をコントロールする能力が低下していたのである。
意志力は思考や感情、衝動、パフォーマンスをコントロールすることによって使われる。さまざまな実験から明らかになるのは、意志力の2つの特徴が明らかになる。
① 意志力の量には限りがあり、それは使うことで消耗する。
② すべての種類の行動に用いられる意志力の出所は1つである。
意志力の出所については、仕事のために1つ、ダイエットのために1つ、運動のために1つ、家族にやさしくするために1つ、とそれぞれ別の「貯蔵庫」があると思われているかもしれない。
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