著者は、筑波大学と北茨城市民病院附属家庭医療センターでアルコール低減外来を開設し、診療に当たる医師である。アルコール低減外来とは、アルコールの摂り過ぎによる諸問題に患者と共に取り組む「飲酒に関する相談窓口」だ。
医学部卒業後、著者は山間部にあるクリニックで働いていた。そこにアルコール依存症に近い患者さんが来たときには、アルコール問題を専門に扱う精神科や心療内科を紹介し、二度とお酒は飲めないと伝えざるをえなかった。そうすると、ほとんどの人は嫌がり、せっかく面談の時間をとっても、ほとんどが専門機関に「行くか」「行かないか」の問答に費やされてしまう。著者は次第に、説得に時間を割くよりも、飲酒習慣を見直す会話を重ねるほうがアルコール問題の治療につながるのではと考えるようになった。こうしてできたのが、依存症になる手前の、ちょっと飲みすぎている人たちも気軽に訪れることのできる窓口だ。
著者の外来に訪れる、明らかに問題を抱えている人の平均酒量は、ビール500mlを毎日6、7本。これらを約2時間で飲んでしまうようだ。お酒に対する依存度が高い人ほど、自分の飲み過ぎを否定する。それは、依存症を受け入れると、お酒をやめるように言われ、大好きなお酒を二度と飲めなくなると思うからだ。
だから著者は「お酒をやめるか減らすか、どっちにします?」と問いかけるようにしている。すると、多くの人がしぶしぶ「減らすほうで」とつぶやく。そのひと言が治療への第一歩となる。
以前は、依存症になると、二度とお酒を飲めなくなるのが当たり前だったが、現在はそうではない。カウンセリングによる減酒、減酒薬による治療など、より取り組みやすい治療法が登場している。
近年、お酒にまつわる「空気」が変化してきている。日本では、職場の飲み会に無理して出席するよりもプライベートを優先する人が増えてきている。お酒を飲むことを強要するアルハラ(アルコールハラスメント)という言葉も社会に浸透しつつある。また、世界的な「空気」の変化としては、「実は少量でも飲酒自体が有害なのではないか?」と考える人が増えてきたことが挙げられる。生活者の実感からも、研究者や医師の知見からも、飲酒の害が課題として浮かび上がってきているのだ。
3,400冊以上の要約が楽しめる