コーチングは、問いを投げかけ、相手が自発的に前進できるようサポートする。サポートされた側は行動に対して「意味づけ」がなされ、意味づけがなされた行動は他人による指示よりも現実化する可能性が高いと言われている。
目的地が定まり、そこに自ら歩んでいく。しかし、その目的地へと到達するには「エネルギー」の継続的な供給が必要となる。このエネルギー供給のことを、コーチングの世界では「アクノレッジメント(acknowledgement)と言うのである。アクノレッジメントの回数やバリエーションが多ければ多いほど、相手はより遠くの目的地まで動いていける。
アクノレッジメント、承認とは、声を掛けるといった何気ないやり取りも含め、「『私はあなたの存在をそこに認めている』ということを伝えるすべての行為、言葉」を指す。太古より協力関係を築くことで生き延びてきた人間は、アクノレッジメントによって「生き残れるか」の不安を払拭してきた。だからこそ、それを与えてくれる人に強い信頼感を抱くのだ。
トミー・ラソーダは、野茂英雄選手が渡米した時にロサンジェルス・ドジャースの監督をしていた。彼のマネージャーとしての手腕は別格だった。その彼はほめるという行為を次のように捉えている。
ほめることは、「すばらしい!」などと美辞麗句を投げかけることではない。相手が心の奥で欲している言葉を伝えることで、「ほめる」という行為は完結する。
これは、選手の観察と試行錯誤から導き出されたことだ。ヒットを打った選手にさまざまな言葉を投げかけ、少しだけ笑みを漏らす反応を得られた言い回しやフレーズを、「これだ」と得心する。
このように、ほめるという行為は技術なのだ。相手をよく観察し、どういった評価が欲しいのかを熟慮することで初めて、「ほめ言葉」を発するべきである。部下が喉から手が出るほど聞いてみたい言葉を想像し、考えに考え抜いて、真剣に心から伝える。部下の動きは別人のように変わるはずだ。それができるように、まずは練習あるのみである。
企業のマネジャーに対しても、「任せる」ことは絶大な力を持つスーパーアクノレッジメントである。ただし、「任せる」と「押し付ける」は違うということに注意したい。「任せる」とは、最終的な責任をこちらで受け持ちつつ、「相手の裁量で進められる部分をきちんと与えて仕事を振る」ことだ。
任された人は自分が必要とされていることを感じられるし、集団の一員であるという認識のなかで不安を減らすことができる。より創造的になるし、フットワークも軽くなる。
しかし、任せることを実践するのは難しい。ついつい口を出してしまう行動は、欲しがっていたおもちゃが手に入った瞬間に取り上げるようなものだ。部下のモチベーションも、上司に対する信頼も失せてしまうだろう。
また、任せることは丸投げとも違う。任せるのがうまい上司は部下に何を任せられるかを一生懸命探している。失敗しても自分が責任をとれる、部下の成長にとって大いに役立つものを見定めたうえで仕事を与える。そして、任せられるものを見つけたら、真剣な眼差しで「頼んだぞ」と言い切るのだ。
管理職や経営者は「部下を叱ると辞めてしまう」という悩みを抱えている。ここで頭の隅に入れておきたいのは「叱る」と「怒る」は違うということである。
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