デンマークはここ数年にわたり、クリエイティビティやイノベーションを推進する取り組みに関するランキングで、常にトップ5入りを果たしている。人口は600万ほどでしかなく、国内の競争が激しいとはいいがたいのに、世界と肩を並べている。この国のクリエイティビティの裏には何があるのか? 本書はデンマークのライフスタイルや、クリエイティブな人物の考え方、企業の組織構成や戦略と絡めて、この疑問に答えてくれる。
本書の2人の著者(一人はスポーツ衣料メーカーのCEOでデザインとイノベーション志向の経営者、もう一人はオールボー大学でクリエイティビティやイノベーションを研究する心理学教授)は、「クリエイティブとは何か」「どうすればそれを発揮できるのか」を探究するため、デンマークの第一線で活躍するクリエイティブな人々に詳細なインタビューを行い、その結果をまとめた。
本書で紹介するエピソードには、デンマークらしい特色が備わっている。デンマークには戦略の策定に従業員を参加させる豊かな伝統があり、上層部と下層部の距離が短い点がクリエイティビティを促進するもとになっている。価値あるものを生み出すには、上層と下層の間を本当に必要な知識が流れていく環境が欠かせない。こうしたデンマーク・モデルのクリエイティビティには、世界規模で利用できる重要な要素があるのだ。
クリエイティビティという言葉は何を意味しているのか? クリエイティブな人とは、何ができる人のことなのか?
著者らは、クリエイティビティとは「新たなものを有意義な形でこの世に生み出すこと」と考えている。決して、「既存の枠にとらわれずに考える」ことではない。そうではなく、「既存の枠の限界ぎりぎりのところで考える」ことなのだ。既存の枠の限界は、既存のものと新たなものの間、異なる業界、異なる知識領域、異なるスキルの間に現れる。そこに踏み込むことで、他者の業績を参考にすることができる。しかし、既存の枠から完全に外れてしまってはどうにもならず、売り物にならないおそれすらある。
ブルーフルーテッドは、陶磁器メーカー「ロイヤルコペンハーゲン」の1775年から続く代表作だ。2001年に発表されたブルーフルーテッド・メガは、このシリーズのかつてのデザインを拡大しただけに過ぎないが、それによって新しさと親しみやすさを同時に備えたデザインとなった。
これまでと違うことを行えばクリエイティブになるわけではない。それに加え、他者にとって価値あるものを生み出さなければならない。既存の枠から脱け出すのではなく、既存の枠の限界ぎりぎりのところで考えるよう繰り返し述べているのは、そのためだ。クリエイティビティとは、既成概念にとらわれずに考えるだけでは十分でなく、新たな方法で知的に物事を組み合わせる能力だと言える。
クリエイティビティには、特定の領域の知識が必要になることも大いに強調しておきたい。伝統を更新するには、伝統を熟知していなければならない。
3,400冊以上の要約が楽しめる