ビジネス、政治、家庭環境、訴訟。あらゆる場面で生じる人々の利害のギャップを埋めるのが「交渉」である。私たちがよく使う「駆け引き型交渉」では、不満足な結果を引き起こし、二者間の関係悪化を招くケースも多い。駆け引き型は「ソフト型戦略」と「ハード型戦略」とに分けられる。前者は譲歩をいとわず友好的に合意を目指すが、相手につけ込まれ不本意な結果に終わることも多い。一方、後者は極端な条件を提示して粘ったほうが勝ちだという考えのため、相手を頑なにさせがちだ。
駆け引き型交渉では、お互いが自分の条件を主張し、引っ込めてまた提示することをくり返すため、友好的かつ効率的にベストな合意を形成することからほど遠くなってしまう。双方が自分の条件に固執すればするほど態度を変えにくくなり、自分や相手の本来の利益に目が行きにくくなるからだ。
優れた合意を導くために、本書では「原則立脚型交渉」という手法を提案する。条件をめぐって争うかわりに、交渉の「実体」に注目し、互いの正当な利益を追求しつつ、対立部分については客観的な基準にもとづいて落としどころを探る。このやり方は、相手の交渉経験やタイプを問わず誰もが実践できるオールラウンド型戦略である。「原則立脚型交渉」は次の4つの原則からなる。
(1)人と問題を切り離す
(2)条件や立場でなく利益に注目する
(3)お互いの利益に配慮した複数の選択肢を考える
(4)客観的基準にもとづく解決にこだわる
この4つの原則をどう実践すればいいかを、次項以降で説明していきたい。
相手が感情や欠点をもった生身の人間であることに配慮しないと、交渉は往々にして失敗してしまう。話し合うべき問題と、相手との関係は、意識的に切り離して問題を解決していく必要がある。こうした「人の心の問題」は、具体的には、①認識のズレの解消、②感情の問題への対処、③コミュニケーションの改善という方法で対処することができる。
①認識のズレを解消する
「立場の違いは考え方の違い」にほかならず、対立の本質は、交渉者の認識の違いにある。
相手の認識を知るには、相手の気持ちになってメリットを考え、相手のこだわりに心から共感することが第一だ。相手が正しいかどうかの判断は、相手の見方と完全に一体化できるようになるまでは控えること。
双方の認識の違いを明らかにした後は、結論の検討段階で相手にしっかり参加してもらい、相手の意見を積極的に組み込むようにする。そうすることで、相手がそれを実現したいという気持ちをより強める効果が期待できる。
②感情の問題に対処する
交渉では、感情が重要なポイントになることもある。相手の様子がおかしいときは、相手の、自分のことを自分で決めてコントロールしたいという「自立性」や、存在を認められたいという「価値理解」などの基本的な感情を無視している恐れがある。自分の言動を振り返ってみるとよい。
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