酒を「おいしい」と感じるのはなぜだろうか。
飲み始めたころは苦かったはずのビールも、「本当にうまい」と感じるようになる。健康に悪いと知りつつも、うまいから飲んでしまう。
著者は、食品の味を分析しているユーロフィンQKENの肥田崇氏に、酒のうまさの正体を聞いた。肥田氏によると、人間がおいしいと感じる味覚には五味(甘味、酸味、塩味、うま味、苦味)や渋味・辛味が関わっていて、これらのバランスによって食品の味が決まるのだという。
しかし、同じ酒でもおいしいと感じるときもあれば、イマイチなときもある。その理由は、食品を味わうときの生理的・精神的・習慣的な条件が味に影響するためだという。たとえば、空腹時は糖分が欲しくなるため、マンゴーサワーのような甘いお酒を飲みたくなる。一方、体が疲れているときはレモンサワーのような酸味が欲しくなる。
精神的な条件も関係する。人はストレスがたまると、苦味を欲する傾向があるそうだ。ビールのような苦みのある酒をおいしく感じるのは、そのようなときかもしれない。
飲み慣れている酒がおいしいのは、習慣的な条件に相当する。人は行動するとき「冒険して失敗したくない」というバイアスが働く。そのため定番の酒を選びがちで、それをおいしいと感じるのである。
飲み始めは理性があるものの、酔ってくると歯止めが利かなくなり、飲みすぎてしまう。さらには、普段はやらないような奇行をしたり、暴言を吐いてしまったりすることもある。
このようなことが起きるのは、酔っ払うと脳の機能が低下してしまうからだ。普段は脳が言動の抑制をしているが、酒が入るとコントロールが利かなくなる。
自然科学研究機構生理学研究所の柿木隆介名誉教授によると、「脳とアルコールは、非常に相性が良い」のだという。これは一体どういうことだろうか?
脳には血液脳関門という“脳の門番”があり、有害物質をブロックしている。しかしアルコールは、血液脳関門をいとも簡単に通過してしまう。胃と腸で吸収された後、あっという間に脳に到達するのである。まるで脳はアルコールを歓迎しているかのようである。
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