私はこう考える
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著者
NEW
私はこう考える
ジャンル
出版社
出版日
2024年12月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

総理大臣の眼差しは地方の何を見つめていたのだろうか。著者は現在の日本政治で最も責任の重い職に就いている。それ以前は第二次安倍内閣で地方創生担当大臣という役職に就いていた。そして政治家の本質たる金帰火来を体現するがごとく地方に足を運び続け、ついには総裁選を制し総理大臣就任という念願を成就したのである。

本書は、総理大臣就任までの10年間に刊行された著書から、日本を考えるうえで重要だと考えられる論考がまとめられたものだ。そこには地方創生担当大臣としての経験が色濃く出ている。その背景にあるのは、地方消滅への危機感である。

著者はいう。今は国家存亡の危機であると。

危機とは、混沌を極める国際情勢だけを意味しない。人口減、高齢化社会という国内状況こそが、すでに起こっている未曾有の危機なのである。これを解決する糸口が「地方創生」という言葉にある。

政治にまったく無関心という人は少ないはずであるが、それでも政治家が普段何をし、何を考えているかに触れることもまた少ない。内閣を束ねる総理大臣についても同じことがいえる。

本書は現職の内閣総理大臣の解像度を上げる手掛かりになる。そこにあるのは、有権者が喜びそうな美辞麗句や楽観的な精神論ではなく、耳をふさぎたくなるような日本の現状認識と、その状況から一縷の光明を見出すような徹底した現実主義である。読み始めたときは思わず息をのむが、読み終わるときには前を向いている。そんな不思議な読書体験ができるだろう。

著者

石破茂(いしば しげる)
1957(昭和32)年生まれ、鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒。1986年衆議院議員に初当選。防衛大臣などを歴任。2024年、第102代内閣総理大臣就任。著書に『国防』『日本列島創生論』など。

本書の要点

  • 要点
    1
    今日本は国家存亡の危機にある。それは軍事的な脅威だけでなく、少子高齢化によるものだ。「地方創生」の取り組みの根本には、この危機感がある。
  • 要点
    2
    地方創生とはバラマキを意味しない。このまま地方が衰退すれば、やがて東京が衰退し、日本の衰退につながる。だから、地方をよくすることでその流れを食い止めなければいけない。
  • 要点
    3
    「私たちの町には何もない」「普通の町でいい」そう言いたくなるかもしれないが、今まさに普通のまちが消えていこうとしている。だから普通のまちとしての危機感を持たなければいけない。

要約

静かな危機

敵のいない有事

日本はいま有事である。それは必ずしも軍事的な脅威だけを意味しない。国立社会保障・人口問題研究所の発表によると、このままの出生率が続けば西暦3000年には人口がたったの1000人になるそうだ。それはあくまでも机上の計算の話ではあるが、出生率が国家の存亡にかかわるという言葉の意味を実感するのには有効なシミュレーションといえるだろう。

国家の存立要件とは何か。

それは国土、国民、排他的統治機構だ。そのうちの国民が消えていく。これを有事ととらえない理由があるだろうか。

安全保障の分野で、軍事的な脅威に対しては国民が高い熱量を持ち、活発な議論が交わされている。しかし人口問題になると、そのような「熱さ」は感じられない。静かに、確実に進行している危機に対しては、まだ他人事のようなところがあるといえる。

だがそれでいいわけはない。敵国が攻めてくる、領土を奪われるといったようなことは「起こりうるリスク」であり、そのために外交努力や国内における法整備や自衛隊の強化が図られる。一方で、人口問題はすでに「起こっている」ことだ。にもかかわらず、政治家も国民もまだ危機意識が薄い。だから有事なのである。

地方創生とは何か
helovi/gettyimages

「地方創生」。その言葉はいわゆるバラマキを意味しない。「自民党が地方のご機嫌を取って選挙対策でやっているのだ」という論調で取り上げられることがあるが、地方創生は選挙対策といったレベルで進められてきたわけではない。

地方創生とは何か。これは、明治以来連綿と続いてきた中央と地方の関係を根底から変えるものであるべきで、日本の在り方を変え、この国が何とか21世紀も続いていけるようにするためのものだというのが著者の考えだ。

さまざまな選挙があるが、たとえ国政選挙であっても地域の振興を訴えない者はいない。これまでの内閣においても地方の再生をはかる構想があったのは事実である。だから、それと「地方創生」とどこが違うのか、という懸念や批判の声が挙がるのは理解できる。

こうした疑問への回答として、まず挙げられるのは「危機感」である。かつて日本で注目を集めた地方にまつわる構想はたしかにどれも優れている。しかし、「これをやらねば、国家の持続性が失われる」という危機感はそこになかった。一方「このままでは日本が維持できない」という危機感が地方創生の取り組みの根本にある。

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要約公開日 2025.04.30
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