B君は地方の国立大学を卒業し、ネット販売大手企業に就職した新入社員だ。専門知識が高く評価され、入社後は希望していたデータ解析部門に配属された。
ところが、実際の業務は、B君には雑用ばかりのように感じられた。精度の低いデータを発見して修正したり、システムの改変点をまとめたりといった地道な作業の連続だ。B君には完璧主義なところがあり、確認に時間がかかる。上司はそんな彼に「だらだらするな」と心無い言葉を投げつけることもある。「この仕事は自分に向いていないのでは……」とB君は仕事が面白くなくなった。
そのうち、エアコンの電源を切ったかどうか気になって出勤後家に戻ったり、トイレ後の手洗いに1時間かかったりするなど、仕事に支障が出る行動をとるようになってしまった。先輩の勧めで会社の健康相談窓口に電話したところ、「強迫神経症の疑いがある」と専門医受診を勧められ、B君は退職を考えるようになった。
希望する会社に入り、希望する職種に就いたからといって、全てがうまくいくわけではない。ドラッカーは「最初の仕事はくじ引きである。最初から適した仕事につく確率は高くない。しかも、得るべきところを知り、自分に向いた仕事に移れるようになるには数年を要する」(『非営利組織の経営』)という言葉を残している。
社会人になると、誰もが自分と社会の現実を目の当たりにする。そんな経験を重ねながら自分ができることを知り、それを社会に生かせるようになるには時間がかかる。最初は向き不向きを考えすぎるより、「この仕事で何かを得てやろう」というくらいで良いのではないだろうか。
また、ドラッカーは「貢献に焦点を合わせることが、(中略)成果をあげる鍵である」(『経営者の条件』)とも述べている。貢献とは、仕事で個人の自己実現を促進し、組織や社会に対して成果を生み出す行動を指している。「貢献」に関連した最近の研究でも、「貢献している」「何かの役に立っている」と感じている人は、メンタルヘルスの状態が良いという結果が出ている。
B君は、入社早々評価を気にしすぎて、自分の仕事がどのように組織や社会に貢献しているかということに目がいかなかったのではないだろうか。
D課長はシステム会社の保守管理部門のマネジャーだ。技術革新が進む昨今、システム改変のスピードは速い。部下たちは、大学院や競合他社で既に最新技術を学んでから入社した精鋭揃いだ。
もともと運用管理の技術者として経験を積んできたD課長は、真面目で着実と評価はされるが「デキル」タイプではなく、知識不足や工程管理の合理性の不足が目立つことがあった。部下同士が、D課長の「できないこと」や「知らない技術」をリストアップして飲み会のネタにしたこともあったという。新人の部下にまで「できない上司が、私たちの成長の妨げになっている」と言われ、D課長は自信をなくしてしまった。一方で、部長は、D課長の若いころの頑張りと根性を知っているので、部下たちから反発があっても簡単には管理職から外そうとはしない。そのうち、D課長が心療内科で睡眠薬を処方してもらっているという噂がささやかれるようになった――。
「心の病の最も多い年齢層」は、日本生産性本部の「『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果」(2012年)によると、40代だという。
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