「スタートアップ」というと、会社員にはあまり縁のない話に聞こえるかもしれないが、著者は会社員にこそスタートアップ精神が重要であると説く。その精神とは、周囲の人の共感を呼んで巻き込み、社会に影響をもたらす、といううねりを生み出す精神のことである。それはすなわちチーム戦を戦うということだ。
会社員は組織の一部ではなく、あくまでチームの一員、というふうに著者は考える。組織と個人は対立するものとしてとらえられることが多いが、メンバーがいて初めてチームが成り立つのだから、このとらえ方はチーム戦には邪魔になる。
チーム戦は同調を強制するものではない。チーム総体としての戦力を最大限に高めるためには、異なる価値観を持ったメンバーを認め合い、補い合うことが大切だからだ。「水戸黄門様御一行」のように、それぞれが異なる役割を持ち、それでも同じ目的を持って最終的には団結することが強いチームを作る。
社会に変革を起こすスタートアップ精神の根本には、ものごとを俯瞰して見るものの見方があると著者は述べている。見るべきものは二つある。一つは社会全体から見たときの自分の会社、もう一つは会社の中での自分自身である。
バブル崩壊やリーマンショックを経験した社会において、絶対に安泰である会社など存在しないことは、誰しもに共通する認識だろう。たとえ大企業であっても、社会の中では小さな点のような存在であり、完成されたものではない。自分の会社が社会にどのような意義をもっているのか、そこに自分がどう寄与しているのか、と考えることが必要である。
そのために著者は、会社のホームページを自分で作ってみることを勧めている。その作業を通して、会社が社会においてどういうビジョンを実現したいかを確認したり、自社の強い部分、弱い部分を認識したりできる。また、自分が会社のどこを使って、どう貢献できるのかを具体的に想像することもできる。
自分がやりたいことを実行するために「会社を使う」という、スタートアップ精神に基づく発想を持てば、会社員であり続けることには大きなメリットがあることがわかる。会社を自分の財産だと思って、それを使って自分のやりたいことをやり、会社や社会に利益を還元していくと考えてみよう。
実際のスタートアップであれば1000社立ちあがって1社残ればいいと言われるほどのリスクがあるが、会社員として新しい事業を興すと考えてみれば、実際に会社が倒産したりするリスクをほとんどの場合は心配する必要がなく、安心して事業計画が立てられる。スタートアップであれば資金調達も重要で大変だが、会社員であれば会社の利益になる事業には会社が投資をしてくれる。既に会社が持っている販路、資金などの資産を活用して何かできないか、というふうに考えられることは大きなメリットだ。そのように考えれば、起業家のように働く会社員として、前向きにプライドを持って仕事にチャレンジできるはずだ。
ビジネスの本質とは、社会に影響を与えることである。より平たく言うと、自分たちのモノやサービスの価値をより多くの人に知ってもらい、利用してもらうことである。よって、会社の存続は、すなわちその会社が社会から必要とされているということを意味する。
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