掃除、特にトイレ掃除を大切にしながら会社を大きく成長させたのが、イエローハットの創業者である鍵山秀三郎氏だ。掃除を始めて50年を超えた現在でも、日々の掃除を続けている。では、掃除には一体どのような効用があるのだろうか。
多くの人が直感的にイメージするのは、仕事環境が整備され、業務効率が向上するといった「掃除そのもの」がもたらす「直接的効用」だろう。これらは比較的短期間で得られるが、会社経営においてより重要なのは「間接的効用」だ。直接的効用は業者が掃除しても得られるものだが、間接的効用は自分たちで掃除をするからこそ得られるもの。つまり、掃除そのものではなく、掃除をする人間によってもたらされる効用なのだ。
例えば、自分たちで掃除をすると什器や備品の耐用年数が向上する。なぜなら、愛着が湧き大切に使うようになることで、少しの異常にも気づけ、早めに修理や修繕をすることにつながるからだ。さらに、大切な什器や備品のある会社そのものに対して愛着が高まったり、同僚と一緒に掃除をすることで社内の連帯感が高まったりしていく。そして、会社や同僚に愛着を持つようになった社員たちの頑張りによって、売上も向上するケースがある。
掃除を継続し、習慣化する過程ではさまざまな問題や可能性が顕在化するだろう。それらを通じて社内の課題や可能性を発見できるようになれば、組織変革の糸口になる。つまり、会社の問題解決力の高さが試される方法のひとつが掃除なのだ。
徹底した掃除を社内で習慣化していくためには、社員の自発性や積極性を引き出していくことが不可欠だ。掃除でも仕事でも社員の自発性や積極性などが低い水準にあるのは、社員に原因があるのではなく、会社や社長にそれを引き出す力がないことに大きな原因がある。
掃除を通じて社員の自発性や積極性を引き出せるようになれば、自ずと仕事においても社員がさまざまなことに挑戦するようになる。また、本来の仕事ではない掃除を習慣化することができれば、仕事により近い、あるいは仕事に直結した案件については習慣化が容易になる。こうした経営を、「習慣化の経営」と著者は称している。
特定の行動を習慣化するためには、「きっかけ」→「ルーチン」→「報酬」というループを確立させ、さらにこのループを回すためには、「欲求」を湧き起こすことが必要だ。掃除を開始するための具体的なきっかけとしては、社長を筆頭とした経営陣が率先して行動すること。社長が必ず参加できる曜日や時間を設定し、「社長が参加するのだから」ということで社員の納得を促し、会社全体で掃除を始めるきっかけとするとよい。多くの会社が朝に掃除をする場合が多いが、朝に集まることが難しい会社では、必ずしも朝でなくても構わない。一人ではなく、社長を含めたみんなで掃除をすることが大切なのだ。
掃除の「報酬」は、基本的には「ほめること」。たとえば、その日の掃除で目立ってきれいになった場所をほめてもいいし、懸命に掃除をするメンバーの姿をほめてもいい。社長やリーダーにほめられることそのものが大きな報酬となる。
まずは掃除というルーチンのマネジメントで腕試しをしてみよう、というのが本書の狙いでもある。
著者は、元気な会社であるための条件は少なくとも3つあるという。第1に「業績が良い会社」、第2に「通常業務ができる会社」、
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