本書では要領よく出世する人の習慣や、仕事をする上で大切にしている考え方を豊富に紹介している。その中でも特に身に付けたいのが、「『上司の上司』の視点で考える」。「上司の上司」とは、つまり経営層のこと。要領よく出世する人は、経営層の視点で考えるためのフレームを理解し、さまざまな習慣へと応用している。
ハーバード大学のロバート・カッツ教授が1955年に発表した、マネジメントの段階ごとに必要なスキルを解説する「カッツモデル」というものがある。マネジメントの最初の段階はテクニカル・スキル(業務遂行能力)が重要で、トップマネジメントになるとテクニカルよりもコンセプチュアル・スキル(概念化能力)が必要になってくる。コンセプチュアル・スキルは、将来像を描くための論理的思考、問題解決力、応用力と言われており、「上司の上司」の視点で考えるには、このスキルを身につけることが大切だ。
コンセプチュアル・スキルを身につけるには、以下のフレームで物事を考えることが必要とされている。
まず、社会的環境(政治、経済、社会、技術)であるPESTが、3C(自社、顧客、競合)というタスク環境に影響を与える。例えば経済においては、景気が上向きか下向きかによって需要に影響するので、設備投資をどの程度行うかの判断に影響を与える。技術では、インターネットの普及が一般消費財の小売りや証券会社に大きな影響を与える。マクロ環境であるPESTは企業経営の環境である3Cに多大な影響を与える。その中で企業が勝ち残るために必要な鍵(KSF:Key Success Factor)が導かれ、そのKSFを実現するために企業は7Sという経営要素を工夫していく。7Sとは、次の7点を表わしている。
「Shared value(共有価値観)、Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(経営システム)、Style(経営スタイル・企業文化)、Staff(人材)、Skill(スキル・能力)」
このように、自社がどういう状況にあるのかを、「PEST→3C→KSF→7S」のフレームで考えることこそが、上司の上司、つまり経営層の視点で会社を見ることだ。このフレームを通して事業の構造的な特徴を把握していれば、さまざまなことに惑わされず、冷静に的確に仕事を進められるようになる。
「部下にほとんど仕事をやらせているにもかかわらず、うちの上司は手柄を独り占めにしようとする」。そんな愚痴をよく耳にするが、要領よく出世する人はこういった類の文句は決して言わない。「できる部下」は、まず自部門が成果を出すように尽力する。会社の上層部が自分の上司に高い評価を与えれば、その下で働いた部下として、自分も上層部から高い評価を得られるからだ。その部下の中で誰がよりいい仕事をしたかというのは、上司から人事評価を通して個別に見られる。
上層部が、あなたの上司に当たる管理職を第一に評価するのは当然のことで、人事部はもちろん、上層部の人たちもその管理職1人の成果でないこともわかっている。それを理解している人たちは上司をサポートしながら、成果をどんどん上に上げ、長期的には自分の評価も高めている。
上司の文句を言う人は大勢いるが、上司はあなたが思っているほどバカではない。
3,400冊以上の要約が楽しめる