近年約20倍の競争倍率を誇り、4500名を超える卒業生を送り出してきた宝塚音楽学校では、創立以来100年以上にわたり、厳しい「しつけ教育」が受け継がれている。通学路の歩き方や挨拶の仕方についても徹底されており、制服につける校章や名札の位置もミリ単位で決められている。宝塚の作法は100項目以上に及び、上下関係も厳しい。まるで軍隊のように厳しい作法こそが、宝塚の伝統的な美しさをつくりあげてきたのである。宝塚の作法の二大法則は、「自分がされて不快なことはしない」、「目上の人を敬う」というものだ。
「美しさ」とは内面からにじみ出るものである。本当に美しい人は、日本独自の礼儀やマナー、規律といった「作法」が美しい。宝塚の「清く、正しく、美しく」という教えには、「華やかな舞台に立つためには、自分に厳しく、いつも努力を続けなければいけない」という戒めが込められている。どんな場面でも自分を律し、美しくいることの大切さを説いた「生き方の指針」でもあるのだ。
宝塚には独特の作法がある。例えば通学路では、まっすぐ前を向き、二列で揃って道路の端を歩くのがルールだ。この経験は宝塚の舞台の名物ともいわれる「ラインダンス」の一糸乱れぬ美しさを培っている。一つ一つの作法には理由がある。何かをするときには「何のためにやるのか」を考えるクセをつけるとよい。意味がわかれば納得でき、自然と実践・応用できるようになって、作法に心が宿る。心からの敬意がこもった作法は、誰が見ても気持ちがいいものである。
宝塚音楽学校の入試で最も重要視されているのは、面接試験である。どんな問いに対しても、ハキハキと表現力豊かに大きな声で明るく答えなくてはいけない。面接官は、「この子は厳しいレッスンをこなしながら、舞台人として自分を高めていけるだろうか」という素質を見極めるのである。そこでは、容姿やスキルよりも、人間として最低限の礼儀と素直さがカギとなる。
晴れて宝塚音楽学校の一員となった生徒は、入学式の前に行われる一週間の「ガイダンス」を乗り越えなければいけない。著者にとっては、このガイダンスが宝塚での生活で最も苛酷だった。生徒としての心構えや掃除の仕方、集団生活の基本ルール、日舞の着付けなど、覚えきれないほど多くの規則や作法を教え込まれ、新入生は例外なくパニックに陥る。
このガイダンスの目的の一つは、「本当に宝塚の生徒としてやっていけるかどうか」を自問自答させるためだと著者は考えている。著者が苦しさに耐え抜くことができたのは、「あの夢の舞台に立ちたい」という目標があったからだ。自分を律し続けるパワーをくれるのは自分自身の夢なのである。
宝塚音楽学校で最も有名な作法は掃除である。予科生(一年生)の一日は、毎朝一時間半の掃除から始まる。髪の毛一本、ほこり一つ残さないほどの徹底ぶりである。
宝塚の掃除の真髄は、ほうきで掃く、モップをかけるといった当たり前のことを徹底的にやりつくすことである。当たり前のことをどれだけできているかが、その人が美しく輝けるかどうかを決める。
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