守島氏によると、戦略的人的資源管理とは「経営に資する人材マネジメント」を指し、次の三つの方法があるという。
一つ目の方法は、「戦略達成支援」である。その施策が企業の戦略達成に貢献するかどうかを考えるということだ。人事が陥りやすい罠は、戦略とリンクしない人事施策を行ってしまうことである。「他社でうまくいってそう」という視点や、「過去の施策との一貫性がある」といった視点で施策を考えてしまうのだ。戦略とともに変わる「求められる人材像」に応じて、採用・人材開発も変化しなければならない。
二つ目は、「組織強化」、つまり「組織としての強みを維持するための人材マネジメント」である。具体的には、職場での人材育成機能を維持することや、働く人の組織への信頼感・一体感を醸成すること、そして、組織として変化を遂げていくための能力を獲得することなどが挙げられる。
三つ目は、「働く人のための人材マネジメント」である。働く個人が目指す成長の方向性と、組織が目指す成長の方向性を同期させることによって、人は幸せを感じながら組織の中で働くことができる。大切なのは、優秀層だけでなく普通の人が仕事にエンゲージしている状態を構築することである。
こうした人材マネジメントを効果的に行うには、人事部が現場や経営との接点を多く持つことが重要になる。人事部は、働く人々に協力行動を生み出す「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」や、各自のつながり度合いを示す「ネットワーク」を継続的にモニタリングして、ES調査(従業員満足度調査)や職場サーベイを通じて定量評価することが求められる。
スターバックスはスタッフの8割をアルバイトが占めており、入れ替わりも早い。そんな環境下で、どのようにミッションを守り、継承しているのだろうか。
スターバックスの競争優位は、人材の強さにある。スターバックスが顧客に対して提供する価値である「スターバックスエクスペリエンス」と、その土台となる「サードプレイス(第3の場所)」というコンセプトは、スターバックスの企業理念に共鳴した人材の存在があって初めて生み出される。
スターバックスが毎年採用する7~8000人ものアルバイトを教育するのは、現場のストアマネージャーや同僚たちだ。ミッションの講義と、スキルトレーニングを全て店舗に任せることで、教えられることと実際にやっていることが一致しやすくなる。新人のスキル習得が難しくなる中、ストアマネージャーが新人育成にしっかりと関与し、「HOW(どのように)」ではなく、「WHY(なぜ)」に比重を置いたトレーニングを行うことによって、新人育成は着実に成果を上げているという。
スターバックスが、マニュアルもなく、ミッション浸透を上手く行えているのは、親身なOJTのおかげである。同僚が新人のいいところをとにかく褒め、必要な知識を現場ですぐにフィードバックするため、新人はミッションを実体験と語りで体得し、能動的に行動できるようになるのだ。
また、会社とスタッフのつながりの強さを指す「エンゲージメント」を常に高め続けているのも、同社の特徴だ。
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