人事よ、ススメ!

先進的な企業の「学び」を描く「ラーニングイノベーション論」の12講
未読
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先進的な企業の「学び」を描く「ラーニングイノベーション論」の12講
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人事よ、ススメ!
出版社
出版日
2015年02月01日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

人材開発に携わる人たちは、今後どんな未来を目指していけばいいのか? そのヒントは、研究のトップランナーや人材育成の実務家による、本書の12の講義に詰まっている。

本書は、編著者の中原淳氏が主任講師をつとめる、「人材開発の専門知識・スキル」を学ぶことを目的にした社会人向け講座『ラーニングイノベーション論』を書籍化したものである。この講座は、企業の人事・人材開発担当者が「人材開発の基礎理論・知識・事例」を学び、それらを活かして、自社の「人材開発のあり方」を改善する提案を最後に行うというアクションラーニング型の授業を特徴としている。

「経験学習とOJT研究の現在」、「やる気を引き出すスターバックスのミッションマネジメント」、「支援をキーにした人材開発部門のあり方」、「成長するしかけを創る」など、扱うテーマは多岐にわたる。講演者も、日本のキャリア研究の第一人者である金井壽宏氏や、サイバーエージェント執行役員・人事本部長の曽山哲人氏など、学術・実務の両面から人材育成の最前線に立つ豪華な顔ぶれが並ぶ。

研修やOJT、ミッションの浸透、人事制度の構築、人材開発部門の役割など、人事の課題と最先端の知見を、豊富な具体例とともに包括的に紹介した本書は、類書にない発見の宝庫であるはずだ。人事担当者はもちろん、「学びのイノベーション」に関心を持つすべてのビジネスパーソンにお薦めしたい一冊である。

ライター画像
松尾美里

著者

中原 淳
東京大学大学総合教育研究センター准教授。東京大学大学院学際情報学府准教授(兼任)。東京大学教養学部学際情報科学科(兼任)。大阪大学博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等をへて、2006年より現職。慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)にて、人事・教育の担当者、企業内人材育成・開発の業務に携わる方に向けた教育講座「ラーニングイノベーション論」を主宰する。
著書に『職場学習論―仕事の学びを科学する』(東京大学出版会)『経営学習論―人材育成を科学する』(東京大学出版会)『研修開発入門―会社で「教える」、競争優位を「つくる」』(ダイヤモンド社)『駆け出しマネジャーの成長論―7つの挑戦課題を「科学」する』(中央公論新社)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    スターバックスは、親身なOJTによってミッションを上手く浸透させている。同僚が新人のいいところを褒め、必要な知識を現場でフィードバックするため、新人はミッションをすぐに体得できる。
  • 要点
    2
    学習者に「自分の頭で考えさせ、変化をもたらす」ことを研修で実現させるには、学習者を知り、学習の構造を示すことや、学習環境をデザインすることが大事である。
  • 要点
    3
    人事部は、経営陣の言葉を現場にわかりやすく伝え、現場の声から「本質的な問題」を見抜き、経営層に提言するという「通訳」の役割が求められる。

要約

戦略的人的資源管理(守島基博)

経営に資する人材マネジメントの三つの方法
Bartłomiej Szewczyk/iStock/Thinkstock

守島氏によると、戦略的人的資源管理とは「経営に資する人材マネジメント」を指し、次の三つの方法があるという。

一つ目の方法は、「戦略達成支援」である。その施策が企業の戦略達成に貢献するかどうかを考えるということだ。人事が陥りやすい罠は、戦略とリンクしない人事施策を行ってしまうことである。「他社でうまくいってそう」という視点や、「過去の施策との一貫性がある」といった視点で施策を考えてしまうのだ。戦略とともに変わる「求められる人材像」に応じて、採用・人材開発も変化しなければならない。

二つ目は、「組織強化」、つまり「組織としての強みを維持するための人材マネジメント」である。具体的には、職場での人材育成機能を維持することや、働く人の組織への信頼感・一体感を醸成すること、そして、組織として変化を遂げていくための能力を獲得することなどが挙げられる。

三つ目は、「働く人のための人材マネジメント」である。働く個人が目指す成長の方向性と、組織が目指す成長の方向性を同期させることによって、人は幸せを感じながら組織の中で働くことができる。大切なのは、優秀層だけでなく普通の人が仕事にエンゲージしている状態を構築することである。

こうした人材マネジメントを効果的に行うには、人事部が現場や経営との接点を多く持つことが重要になる。人事部は、働く人々に協力行動を生み出す「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」や、各自のつながり度合いを示す「ネットワーク」を継続的にモニタリングして、ES調査(従業員満足度調査)や職場サーベイを通じて定量評価することが求められる。

やる気をひきだすマネジメント(久保田美紀)

スターバックスのミッションマネジメント

スターバックスはスタッフの8割をアルバイトが占めており、入れ替わりも早い。そんな環境下で、どのようにミッションを守り、継承しているのだろうか。

スターバックスの競争優位は、人材の強さにある。スターバックスが顧客に対して提供する価値である「スターバックスエクスペリエンス」と、その土台となる「サードプレイス(第3の場所)」というコンセプトは、スターバックスの企業理念に共鳴した人材の存在があって初めて生み出される。

ミッション浸透の秘訣
nmlfd/iStock/Thinkstock

スターバックスが毎年採用する7~8000人ものアルバイトを教育するのは、現場のストアマネージャーや同僚たちだ。ミッションの講義と、スキルトレーニングを全て店舗に任せることで、教えられることと実際にやっていることが一致しやすくなる。新人のスキル習得が難しくなる中、ストアマネージャーが新人育成にしっかりと関与し、「HOW(どのように)」ではなく、「WHY(なぜ)」に比重を置いたトレーニングを行うことによって、新人育成は着実に成果を上げているという。

スターバックスが、マニュアルもなく、ミッション浸透を上手く行えているのは、親身なOJTのおかげである。同僚が新人のいいところをとにかく褒め、必要な知識を現場ですぐにフィードバックするため、新人はミッションを実体験と語りで体得し、能動的に行動できるようになるのだ。

また、会社とスタッフのつながりの強さを指す「エンゲージメント」を常に高め続けているのも、同社の特徴だ。

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要約公開日 2015.08.26
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