経済成長がしづらくなった日本において、GDPを成長させるには、人口を増やせばいい。とはいえ、移民政策はなかなか受け入れられない上に、女性の活用を経済成長に結びつける「ウーマノミクス」では即効的な効果は得られない。そこで、著者が提案するのは、外国人観光客という名の「短期移民」を増やすことである。観光客がお金を落とす機会をもっと用意し、お金をたくさん使ってくれる外国人を多く呼び込むことで、GDPを上げることが期待できる。そのためには、日本は「観光立国」の道を歩んでいかなくてはいけない。
観光立国とは、その国の特色的な自然環境や文化財などを整備することで国内外の観光客を誘い込み、観光ビジネスなどで人々が落とすお金を、国の経済を支える基盤の一つとして確立することである。観光立国の最低条件は、一国の観光産業がGDPの9%(世界平均)以上を占めていることだ。日本は、GDPに対して、外国人観光客から得た収入の比率が際立って低い状況にある。
世界から観光立国として認識されている国は、国際観光客到着数と国際観光収入の2つの指標で測ることができ、フランス、アメリカ、スペイン、中国、イギリス、イタリア、タイ、香港などが上位に並ぶ。2014年の訪日外国人観光客数は、タイや香港の半分程度の規模にすぎない。
観光立国になるために不可欠な4つの条件を見ていこう。
1つ目は「気候」である。極端に寒い国や暑い国は訪れるハードルが高くなるため、ほどほどの気候が観光立国に向いている。また、一国に気候の幅の広さがあれば、スキーを楽しみたい人やリゾート目当ての人など、色々なタイプの観光客を受け入れることができて有利である。
2つ目の条件は「自然」である。都市化が進む先進国の人にとっては、自国では見ることのできない雄大な自然が魅力的に映る。その土地に生息する植物や動物も「自然」に含まれる。
3つ目の条件は「文化」だ。歴史的遺物・建造物のような過去の文化も、現代の文化も大事な訴求ポイントとなる。例えば、フランスはルーブル美術館やヴェルサイユ宮殿を有し、最先端のファッションブランドやアーティストを抱えているため、過去と現代両方の「文化」を誇っている。
4つ目の条件は「食事」である。フランス料理、イタリア料理、中華料理など、その国固有の料理として世界的に普及している食事は、外国人観光客を呼び込む重要な要素になっている。
実は、日本はこの4つの条件を満たす希有な国である。気候の面では、北海道でスキーができ、沖縄でビーチリゾートを楽しめるという利点があり、自然の面では、国土の多くを占める森林や山、多様な動植物が観光資源となっている。また、和食が世界文化遺産になったように、「食事」もハイレベルだ。さらには、能や歌舞伎のような伝統文化からアニメ、マンガのような現代文化、城や寺、神社などの文化財、茶道や華道など、多様かつ独自の「文化」を誇っている。
4つの条件を満たしているにもかかわらず、外国人観光客が日本に年間たった1300万人しか訪れていないのはなぜなのか? 日本が宝の持ち腐れ状態になっている原因を分析していきたい。
日本はこれまで観光を軽視してきた。現に、観光の目玉である文化財に振り向けられる予算が世界の観光大国に比べて非常に少なく、京都の伝統的な街並みが崩壊の危機にあっても、特に対策が取られていないという事実が、それを証明している。
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