ひとつのことに集中するということは、他のことを放っておくということ。集中する力は物事をシャットアウトする力でもある。欠乏は「集中」を生む代わりに、「トンネリング」を引き起こす。つまり、目先の欠乏に対処することだけに集中する。
「トンネリング」は、トンネル視を連想させることを意図した表現で、トンネル視とは、トンネルの内側のものは鮮明に見えるが、トンネルに入らない周辺のものは何も見えなくなる視野狭窄のことを表わす。
人はトンネリングを起こすと、ほかのことを完全に放置することがある。トンネルの外の物事ははっきり見えにくく、過小評価されやすく、省かれる可能性が高い。
欠乏によって物の見方が変わり、選択の仕方が変わる。のめり込んでしまうせいで、本当は大切にしているものをおろそかにするのである。
欠乏への集中というものは無意識であり、人の注意を引きつけるので、ほかのことに集中する能力を邪魔してしまう。
注意しなければならないのは、外部に気を散らすものがまったくなくても起こるマインド・ワンダリングである。脳が安静状態になると、人は自分自身でも気づかないうちに行っていることから離れていく傾向がある。何かに集中しようとしていても、突然の物音と同じように、欠乏によって注意を他にそらされてしまう。
欠乏は、重大な心配ごとが連続発生することと言える。貧しい人はひっきりなしにお金の心配をしなければならず、多忙な人は、時間の心配と戦わなくてはならないのだ。欠乏は、ほかのあらゆる心配の上にさらなる負担を加え、常に処理能力に負担をかける。欠乏によって負荷をかけられた頭脳は、能力が発揮しにくい状態になるため、他の人からは無能な頭脳だと勘ちがいされやすい。
欠乏はトレードオフ(一方を追及すれば他方を犠牲にせざるを得ないこと)思考を強いるものだ。お金に困っている人は、何かほかのものを買おうと考えるとき、トレードオフに直面する。厳しい締め切りに追われている人も、ほかのことに1時間を費やすことを考えるとき、トレードオフを感じる。トレードオフ思考は欠乏状態に特有の結果であるのだ。
欠乏は人を大きなまちがいへと導く傾向がある。処理能力が低下していると、衝動に屈しやすく、誘惑に負けやすく、失敗しやすいのである。
一方で、スラック(ゆとり)があると豊かさを感じられる。スラックは非効率ではなく、心のぜいたくだ。豊かであれば、より多くのものを買えるだけではなく、考えなくていい、まちがいを気にしなくてもいいぜいたくが許されるのである。
欠乏を経験する人は、今だけでなく、たいていあとでも欠乏を経験しがちだ。欠乏に直面すると、人は現在に集中してしまい、長期的な見通しなしで例えば借金をしてしまう。
人は重要で期限が迫った課題に取り組むとき、爆発的に生産性が上がるという。これを集中ボーナスと呼ぶ。その一方で、多忙な人は重要だが緊急でない課題を放置してしまう傾向がある。
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