「いき」の構造

他二篇
未読
「いき」の構造
「いき」の構造
他二篇
未読
「いき」の構造
出版社
岩波書店
出版日
1979年09月17日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.5
要約全文を読むには
会員登録・ログインが必要です
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

「いき」な着こなし、「いき」な柄、「いき」な計らい――。確かにあるけれどもなかなかに捉えがたい、「いき」という日本的な美意識の構造を明らかにするのが、本書表題の論文である。

著者、九鬼周造は、ヨーロッパ哲学史のスターたちに教えを受けた、第一級の哲学者である。九鬼の面目躍如たる本稿は、「いき」という身近なテーマを扱いつつも、エッセイの類ではなく、西洋哲学の伝統的方法論に基づくれっきとした学術論文である。そのため、用語や言い回しにとっつきにくさを感じる方も多いかもしれない。

だが、だからといって本書に手を出さずにいるのは非常にもったいない。本書には、本格的な論考としての価値のほかに大きな魅力がある。

「いき」はもともと江戸の、遊郭で生まれた美意識だったという。「粋と云はれて浮いた同士(どし)」というように、つねにそこには色っぽさがつきまとう。九鬼は、江戸文学や浮世絵を引き合いに出しながら、「いき」を着実に言葉にしていく。それぞれの表現を楽しみ、「いき」の背後にある豊かな江戸文化を知ることだけでも、読者は感性を磨き、教養を深めることができるだろう。

本書の解説はフランス文学者であり、評論家である多田道太郎による。「『いき』というのは、日本を知るために、また世界を知るために大事な美意識だと思う」と多田は語る。本書はまた、多くの著名なビジネスパーソンのファンを持つ、ロングセラー作品でもある。洗練された一流のビジネスパーソンとなるため、ぜひ目を通していただきたい一冊だ。

ライター画像
熊倉沙希子

著者

九鬼周造
(1888―1941)
哲学者。東京大学哲学科卒業。ヨーロッパに留学し、リッケルト、ベルグソン、ハイデッガーに師事する。帰国後、京都大学で教鞭をとる。解釈学的、現象学的手法を用いて日本固有の精神構造あるいは美意識を分析した。主な著書に『「いき」の構造』『偶然性の問題』などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    わたしたちが意識として持っている「いき」は、「垢抜して(諦め)、張のある(意気地)、色っぽさ(媚態)」と定義することができる。
  • 要点
    2
    「いき」が感じとれる身体のありさまや模様や茶屋建築には共通して、その色やかたちで「諦め、意気地、媚態」に通じる性質が表現されている。
  • 要点
    3
    「いき」は、西洋文化にはない、日本民族固有のものだ。

要約

序説――「いき」を明らかにするための方法

「いき」という言葉
Ken Drysdale/iStock/Thinkstock

「いき」という現象をありのままに把握し、その構造を明らかにしようというのが本稿の目指すところである。

まず、そもそも、ある言語や意味は、民族の存在が創造するものだ、と九鬼は述べる。言語が民族を形成するのではない。そのため、ある民族の持つ言葉は、民族固有の体験の色合いを帯びるものといえる。もちろん、「空」「森」など各国に共通する普遍性を持つ言葉もあるが、そうしたものでさえも、国々によって別の色合いの意味内容を持つ場合がある。

さまざまな言葉の中でも、「いき」という日本語はとりわけ民族的色彩の濃いものである。ヨーロッパ言語に注目してみても、まったく同じ価値の言葉を見出すことはできない。たとえばよく「いき」と訳されるフランス語のchic (シック)は、より意味の範囲が広く、趣味の「卓越」などという意味も含む。同じくフランス語のcoquet(コケット) は、異性の気を引こうとする態度である「媚態的」を意味し、「いき」の特徴の一つと通じるように思えるが、ときに「下品」ともなり「甘く」もなるというところでやはり同一の意味とはいえない。

ありのままの現象として捉える

このように民族固有のものである「いき」を追求するにあたって、九鬼は、「いき」のありのままの姿を把握することが大切だと述べ、西洋の類似の言葉との共通点を形式化するような態度を否定している。九鬼は、具体的、解釈的に「いき」の構造を明らかにするため、意識の上で認識している現象としての「いき」の存在様態を理解した上で、人の姿や芸術作品に客観的に見てとれる「いき」を理解するという方法をとる。次項以降で紹介していこう。

【必読ポイント!】意識現象としての「いき」1――意味を判明する

三つの性質――「媚態」、「意気地」、「諦め」
Vladyslav Danilin/iStock/Thinkstock

「いき」を意識現象として理解するための第一歩として、九鬼は、「いき」の意味を形成している三つの性質を挙げる。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3475/4297文字

3,400冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2015.09.29
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
ガリア戦記
ガリア戦記
カエサル近山金次(訳)
未読
デミアン
デミアン
ヘルマン・ヘッセ実吉捷郎(訳)
未読
イスラーム文化
イスラーム文化
井筒俊彦
未読
ホメロス イリアス
ホメロス イリアス
松平千秋(訳)
未読
ユートピア
ユートピア
トマス・モア平井正穂(訳)
未読
合理的なのに愚かな戦略
合理的なのに愚かな戦略
ルディー和子
未読
国富論
国富論
アダム・スミス水田洋(監訳)杉山忠平(訳)
未読
気仙沼ニッティング物語
気仙沼ニッティング物語
御手洗瑞子
未読