権力の終焉

未読
権力の終焉
出版社
日経BP
出版日
2015年07月21日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

今日、国家の転覆や大企業の倒産はさほど珍しいことではなくなった。中央集権的な構造は取り払われ、小さな団体、あるいは個人がプレイヤーとして台頭している。おもしろいのは、政治や経済、宗教やメディアにいたるまで、さまざまな分野で同様の傾向が見られることだ。これらをまとめて「権力の終焉」という同一の事象に落とし込んで論じたのが本書である。

「大きいことはいいことだ」とされた時代は終わり、小回りの利く「マイクロパワー」が権力を手にするようになった。それは実感しやすい主張であり、日本国内でも数多の例を挙げることができるだろう。ただしその原因を、インターネットの普及やIT化だけに求めてしまうのは表面的に過ぎると著者はいう。もっと根源的で、長期的な形で、権力は危機にさらされ続けているのだ。この権力終焉の要因は「3つのM革命」でシンプルに説明されており、その明快さに唸らされる。

権力はただ単に移行しているのではなく、摩耗し脆弱なものとなって、ついには権力を持つこと自体の意味が小さくなっていく。はたしてその先に待つのはどのような社会だろうか。権力終焉の負の側面に目を向けて警鐘を鳴らす著者の主張は一貫しており、豊富な具体例と合わせて丁寧に追いたい内容である。

権力の終焉を防ぐための、より有効な手段はないのか? 権力の終焉から逃れられる分野はあるのだろうか? 本書から派生する疑問は尽きない。脳をフル回転させることのできる、刺激的な一冊だ。

著者

モイセス・ナイム
MITで理学修士号と博士号を取得後、ベネズエラ開発相や世界銀行理事を経て外交専門誌『フォーリン・ポリシー』編集長を14年間務める。現在はカーネギー国際平和財団の特別研究員のほか、ニューヨーク・タイムズやル・モンドなど世界中の有力紙に寄稿、ラテンアメリカで国際情勢を扱ったテレビ番組制作に携わり、自ら出演もするなど、精力的な活動を展開している。邦訳に『犯罪勝者.com―ネットと金融システムを駆使する新しい“密売業者”』(光文社)。

本書の要点

  • 要点
    1
    権力とは、ほかの集団や個の現在または将来の行動を予測したり、阻んだりする能力である。今日権力は劣化し、権力を行使したり維持したりすることは難しくなっている。
  • 要点
    2
    権力が弱体化したのは、More(豊かさ)、Mobility(移動)、Mentality(意識)の3つの革命がもたらされ、権力への参入障壁が崩れたからである。
  • 要点
    3
    権力が衰退すると、政府は無秩序状態に陥り、重要な問題に対処するための決断を下せないといったデメリットがある。これを回避するには、単純な思考をやめ、統治者への信頼を取り戻す必要がある。

要約

権力は衰退している

抑制される権力者たち
©iStock/sborisov

権力とは、ほかの集団や個人の現在または将来の行動を命令したり、阻んだりする能力である。そのために状況の構造を変えるにせよ、あるいは受け手の意識や評価を変えるにせよ、権力を行使することによって、権力者は他人になにかをさせる――あるいはさせないことができる。

かつて権力は、「規模」と明確に紐づいていた。第二次産業革命を経て定着した資本主義社会においては、大規模な組織が勝利を収めた。それにより「大きなことはいいことだ」という認識が強化され、権力を長期にわたって行使するためには、中央集権的な体制が必要不可欠となった。ドイツの社会学者であるマックス・ウェーバーが説いた「官僚組織」も、権力を管理するための組織として有効に機能した。

2度の大戦によって「大きな組織」の支配力はより強まり、近年に至るまで、一部のエリート層による寡占的な支配の図式はごく一般的なものであった。しかし今日、「持つものはより多く持つ」という考え方は少々時代遅れになりつつある。権力が国家間の間でシフトしたり、小規模な新手のプレイヤー達の間に分散したりしていることは周知の事実である。

著者のこうした主張は、広く知られている主張に逆らうものである。権力はより集中し、序列は入れ替わっていないという側面もあるからだ。しかし問題なのは、権力が移行しているだけでなく、その過程で摩耗し、衰えつつあるということである。権力そのものを手に入れられても、それを長期間保持したり、行使したりすることが困難になっているのだ。事実、アメリカのCEOの平均在職期間は、2005年までに6年に縮小した。トップ交代が世界的に少ない日本でさえ、2008年には、強制的に辞任させられる代表の数が4倍に増えている。リーダーたちは、ひとたび過ちを犯せば簡単にその権力をはく奪されてしまうし、実現したいことがあっても、メディアの監視の目や、抵抗勢力によって束縛されることになる。

「3つのM」革命

「マイクロパワー」の台頭

権力を長期にわたり行使できるのは、権力者が参入障壁によって守られているからである。しかし近年、この壁は急激にもろくなってしまった。革新的な新興企業や活動家など、かつては官僚制組織を弱体化させるにはいたらなかった「マイクロパワー」たちが、メガプレイヤーたちを脅かすようになってきているのだ。成功を収めるマイクロパワーたちは、メガプレイヤーにとって代わったわけではなく、従来とは異なる有利性や技術を武器に、メガプレイヤーを疲弊させ、邪魔をしている状態である。

マイクロパワーの台頭には、冷戦の終結やインターネットの誕生が大きく関係している。しかし、重要な要素はほかにもある。

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要約公開日 2015.12.15
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