「私は若年性パーキンソン病です」。ダイヤモンドダイニングの創業社長、松村は、本書を書くことになるノンフィクション作家の小松に、涙を拭いながら告げた。これまで彼は社員や友人にも病気のことを明かさなかった。若年性パーキンソン病は稀少な難病で、現在は完治のための治療法もない。いくら脳がクリアに働いていても、体が動かなかったり、声が出なかったりという症状に苦しむことも多い。また、外食上場企業の代表という立場上、深刻な風評も免れない。何よりも、「可哀そう」と思われたくないという思いが松村の心を占めていた。
しかし、彼は絶望の直前で、これまでにない闘争心に突き動かされた。「この病気は自分の運命だったのだ。ダイヤモンドダイニングを前人未到の業績を刻む企業にしてみせる。そう本気で思えるんです」。
松村の外食産業における評判は凄まじい。「レストラン業界のタブーに挑み勝利した男」と称賛される一方で、「無計画経営者」と揶揄されることも多々ある。
高知から上京した松村は、大学時代に「サイゼリヤ」でアルバイトをしたのを機に、外食・サービス業を志したという。大学卒業後は当時有名ディスコを運営していた日拓エンタープライズに入社し、「黒服四天王」の異名をとった。6年後、日焼けサロンチェーンを展開し、2001年に飲食業に参入した。銀座にオープンした「ヴァンパイアカフェ」は空前の大ヒットとなる。独自の「マルチコンセプト戦略」を掲げ、2010年10月には「100店舗100業態」を見事、達成した。
この偉業を成し遂げる間、松村は2006年に発覚したパーキンソン病との壮絶な闘いの最中にあった。彼の野心は、病状の進行とともに、かえって燃え盛っていった。
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