2007年に表面化し、先進国を襲った未曾有の金融危機。経済学の定説ではほとんど考えられていなかったこの金融危機の波は非常に大きく、アメリカ、イギリスのみならずアイスランドやアイルランド、ヨーロッパ大陸の大部分を呑み込んだ。経済への影響は1930年代の大恐慌時ほど大きくはなかったが、金融への影響はその時代以上に深刻だった。
今回の危機により、世界の二大金融センターであるニューヨークとロンドンの活動を支配する大手金融機関を結ぶネットワークが分断され、いわば金融システムの心臓部が瓦解した。この金融危機を制圧するために2008年10月から約1年半の間、主要各国は銀行システムを救済し、前例のない規模の金融緩和を実行、巨額の財政赤字を出すなど異例の政策対応をとった。一連の対策は成功し、危機発生直後のパニックは封じ込められ、下降していた高所得国の景気も2009年初めには回復に転じた。
しかし政策当局は、民間部門のデレバレッジ(過剰債務の解消)を支え、バランスシート・リセッションの長期化を避けるために必要な政策を継続しなかった。そのため、回復の足取りは弱々しく高所得国の経済は未だ健全な状態には戻っていない。
単一通貨のユーロが導入されたことでユーロ圏諸国に国際収支の問題がなくなると期待されたが、通貨同盟内の国が大規模な資本純流入に頼り、それが突然止まる「サドンストップ」が起きると、すぐさま経済危機に直面する。ユーロ圏には欧州中央銀行(ECB)という統一された強力な機構があるが、銀行業界は今も各国により規制監督されており、国境を超える財政支援も規模が限られている。
さらにユーロ圏諸国の多くは労働市場の流動性が非常に低く、言語や文化、法律、社会制度、年金などの福祉国家構造によっても国ごとに分断されている。そもそもギリシャのような国とドイツのような国を同列に扱う制度設計には無理があったのだ。ギリシャ危機はユーロ圏の経済と制度構造の根本的な欠陥を露呈させ、長期に渡るユーロ危機の引き金を引くこととなった。
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