本書の目標は、徹底的なユーザー目線で発想する「行為のデザイン」について解説し、デザイナー以外の立場でも、デザイン思考を活かすマネジメントができるようにすることである。
「行為のデザイン」とは、ユーザーの行動や心理に着目し、人や情報、環境を視野に入れて、ユーザーがより滑らかに目的の行為を進められるプロダクトやサービスのデザインを考えることである。利用行動が自然であればあるほど、説明書がなくても正しい使い方を導くことができるうえに、プロダクトが場になじみ、息の長いものになる。もしプロダクトの利用中にユーザーの動きが止まってしまうのならば、不都合や不便を感じさせる「バグ」が発生しているといえる。プロダクトの開発段階でバグを発見し、解消することが重要だ。
デザインの段階では、ユーザーの行動の「時間軸」を考えることが不可欠となる。実際の利用シーンにあわせて、ユーザーが目的を達成するための行為の流れを考え抜き、プロダクトの形状を連想していくのだ。例えばユーザーが押し間違いを起こしやすいスイッチがあれば、行為のシームレス感を生み出すために、形状やアイコンを変えてスイッチを認識しやすくするという方法があるかもしれない。
こうして「行為のデザイン」を習得すれば、プロダクトと自分と環境とのインタラクション(作用と影響)を俯瞰し、状況の本質を見抜くことができる。
「行為のデザイン」は、人とプロダクトの最初に接点にあたるインターフェイスを吟味することから始まる。インターフェイスを模式化するには、人と目的、そしてその目的を達成するための手段を書き込めるカードを使うと便利だ。
例えばカフェの容器開発をすると仮定しよう。「人」を「昼休みにコーヒーを買いにきた女性」、「目的」を「熱いコーヒーを飲む」と設定する。「手段(道具)」としてどんなカップを考えればよいか。まずは、その女性がどんな時間軸で熱いコーヒーを飲むのかを想像する。もしコーヒーが熱くて持てなければバグになってしまう。そのため、店内で飲むなら熱が伝わらない取っ手のついたマグカップのほうが便利で、持ち帰るなら軽い素材のカップが望ましいなどと想像する。また、コーヒーがこぼれないように、フタをするなどの解決策も必要になる。すると「熱さが伝わらない持ち帰り容器」「持ち運んでもこぼれない容器のフタ」などがプロダクトデザインのヒントになるだろう。
ここで「人」の部分を女性から年配の男性やインド人などに変えると、求められる「手段」も変わってくる。
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