日本での暮らしの中で、宗教について改めて考える機会は少ないかもしれないが、世界的に見ると多くの人が何らかの信仰を持ち、日常生活と宗教、政治と宗教が深く結びついていることは決して珍しくない。グローバル化が進む昨今、相手の文化や価値観を理解するにあたり、その背景となる信仰の歴史や特徴について知っておくことは、コミュニケーションの一助となるだろう。
世界の宗教について見ていく前に、日本の宗教について概要をおさえておこう。日本人は「無宗教」と自覚している人が多いかもしれないが、寺の檀家になっている人や、神社に参拝に行く人の数は非常に多い。実際に信仰をもち宗教行動をしている人は全体の2~3割と考えられるが、日本社会には慣例としての宗教的儀礼が根付いているといえる。初詣や節分といった年中行事、七五三などの人生儀礼、地鎮祭などの生業儀礼、お盆やお彼岸といった先祖供養なども、生活の一部として自然に行われている。
日本の宗教で人口が多いのは、神道と仏教だ。神道では宗教法人である神社は約8万社あり、天照大神、八幡神、稲荷神などの「祭神」と呼ばれる神が祀られている。神社は地域とのつながりも強く、神社のある土地の信者を氏子と呼ぶ。神社の祭は大切なものとされ、氏子を中心に運営される。また、定期的に神社の社殿を新しく造りかえることを遷宮といい、伊勢神宮の20年に1度の式年遷宮などが有名である。
仏教には現在主に13の宗派があるが、大別すると奈良仏教(法相宗、華厳宗、律宗)、密教系(天台宗、真言宗)、浄土系(浄土宗、浄土真宗、時宗、融通念仏宗)、日蓮系(日蓮宗)、禅系(臨済宗、曹洞宗、黄檗宗)と分けられる。最も檀家が多いのは浄土系である。それぞれの宗派によって本尊や教えが違っており、特徴がある。江戸時代の檀家制度(仏教系の寺院の檀家でなければ戸籍が認められない)の名残により、現在も葬儀や年忌法要は仏教式で行うという家がほとんどだ。
神社と寺院は、江戸時代までは神仏習合状態だったが、明治時代になると神仏分離が進んだ。僧侶の肉食妻帯が許可されたり、神社は「国家の宗祀」とされたりしたのもこの頃である。第二次世界大戦に敗戦すると、神社は特別な地位を失う。
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