まずは、ケインズの投資哲学が誕生した背景をたどっていく。ケインズは、経済学者となる以前、インド省の事務官、つまり公務員としてキャリアをスタートさせた。彼はここでの経験を通じて、お金が社会の中でどのような役割を果たし、文明の発展においていかに重要なものかを学び、市場や投資、投機に関心を持つようになった。
1910年頃、ケインズが真剣に投資を始めた時に採用した投資手法は「ドルコスト平均法」であった。この手法は、最高値で買い、最安値で売ることを避けるためのものであり、個人投資家に有効だった。当時の機関投資家達は債券を買って持ち続けるというシンプルな手法で運用していた。ケインズは株式仲介人のオズワルド・フォークとの交友関係を通じて、株式やコモディティの為替市場と出会い、取引に情熱を注いだ。ケンブリッジ大学で数学を専攻し、「確率論」の本を書き始めていた彼にとって、株式市場は自分の分析能力を試すのに絶好の場だったのだ。
当時のケインズによると、投機の本質は将来実際に生み出す収益ではなく、期待される収益の見込みであるという。この見込みは、投資家の知識の多寡によって変わるため、主観的にならざるを得ない。やがて、第一次世界大戦開戦前夜に起こった熱烈な投機ブームに乗じて、ケインズも外国為替の売買に乗り出した。
投機によって多額の収入を得たケインズは、贅沢に興じていた。しかし、第一次世界大戦によって、環境が一変した。
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