早起き、ダイエット、禁煙──。新しい習慣を定着させることは難しいと思われがちだ。ただ、潜在意識の特性を理解しさえすれば、習慣は簡単に身につけることができる。重要なのは、「知らない」→「知っている」→「できる」→「やっている」という、習慣化の流れを理解することだ。
「知らない」「知っている」「できる」の段階は、習慣化のために日々それを繰り返し、意識してこなしている段階だ。これらの段階では、継続する意志の力が必要だ。だから、大変だと感じていると、続けられなくなってしまう。
一方、最後の「やっている」段階は、やっているのが当たり前の状態を指す。これは、習慣化が完了している状態であるといえる。習慣化を目指すうえでの課題は、「できる」と「やっている」の間のギャップを飛び越えることだ。
人間の行動のほとんどは、潜在意識に支配されている。潜在意識にプログラムされたことは知らぬ間にあなたに働きかけ、特定の行動を取らせている。いくら頑張ってもこのオートマチックな力に意志の力だけでは抵抗しきることはできない。
心理学では、私たちが意識できている部分を「顕在意識」と呼ぶ。それはまるで水面に現れている氷山の一角のような存在だ。一方、「潜在意識」はまさに心の奥底に潜んだ本能的な意識である。自覚されることはないが、人の考え方や行動に大きな影響を与えている部分で、そのパワーは顕在意識の20,000倍以上ともいわれている。「わかっちゃいるけどやめられない」というような場合はたいていこの潜在意識の存在が大きく関わっている。
しかし、人間は潜在意識に振り回されているだけではない。意志をもって設計図を作り、潜在意識を書き換えることで、素晴らしい習慣を身につけることができるのだ。
たとえば犬に噛まれたことによる犬恐怖症などは、一瞬にして潜在意識の中につくられたプログラムであるため、逆に一瞬で書き換えることもできる。このような場合、メンタルコーチが90分ほどのセッションを行うことによって、ネガティブな思い込みをポジティブな強い思いに変えることができる。
一方、日々粛々と繰り返され、長い時間をかけて潜在意識の中につくられるプログラムもある。その場合は漢方薬による体質改善のように、ゆっくりと時間をかけてプログラムを最適な方向に書き換える必要がある。その意味で、習慣化とは潜在意識の体質改善ともいえる。
しかし、潜在意識には「安心安全第一で動く」という特徴があるということを忘れてはならない。現状が脅かされていると判断すると、変化を起こさないように潜在意識はブレーキをかけ始める。人がいろいろなことを急に変えようとしてもなかなか実行できないのは、潜在意識のこの強烈な抵抗にあっているせいだ。習慣化を成功させるためには、潜在意識の安心安全欲求をしっかり満たしながら進めることが肝心である。
意志の力は無尽蔵ではない。無理や我慢を続けると、やがて限界が来てしまう。習慣化を行う初期段階では、意志の力をなるべく使わないように「まずは1つのことに集中する」ことが大事だ。
最初に取り組む習慣を決め、それに取り掛かる。1つ目の習慣を3週間から3カ月続けたあたりで、どれだけ定着したかを確認する。日常の中でほぼオートマチックに行われるようになったら、もう習慣化されたと考えてよい。この状態になったら今度は別の習慣を生活に取り入れてみよう。この2つ目の習慣もオートマチックに実行することができるようになったら、少し休憩を挟み、3つ目の習慣に取り掛かる。このようにして、習慣化を1つずつ成功させることで、成功体験を積み重ねていく。そうすることで、人生全体にポジティブな影響を与えることができるのである。
習慣化を達成するためには、頑張りすぎない方がいい。毎日が頑張るモードだと、やがてそれをやることが苦痛の感情と結びつき、継続できなくなってしまうだろう。習慣化において、苦痛の感情をつくらないことが、潜在意識をうまくコントロールする秘訣だ。
少し物足りなく感じるぐらいの行動を3週間続ければ、それが自分にとって「当たり前」の行動になり、「もう少ししたい」という感覚が生まれる。これが続くと「快の感情」と結び付く。これは潜在意識が安心している状態だ。潜在意識をコントロールし、プログラムを書き換えるためには、物足りないぐらいの努力こそが最良であるといえる。
何のために習慣化をしたいのか。本当の目的を自分自身で確かめることにより、真の継続力が生まれる。本当の目的を確認するためにはいくつかのステップがある。
まず、今後取り組んでみたいと感じている習慣を1つ書き出す。次に、何のためにそれを習慣化したいのかを考える。最後に、その目的が達成できたとしたら、さらに何をしたいかを繰り返し書き出す。この「さらに」を繰り返すことで、直近で達成したいことから、人生全体で達成したいことまで、目的のレベルを上げていく。
本当にしたいことに到達できれば、潜在意識は自然と習慣化に向けてロックオンしてくれる。
本当の目的が明確になったら、その達成のため、大事になると思われる習慣をいくつかピックアップする。それが出揃ったら、最初にやるべき習慣を1つだけ決める。
そして、続けられそうな範囲のことを、まずは3週間続けてみるのだ。ハードルの高さを続けられる程度に微調整しながら、それを3カ月続けることができれば、軌道に乗ってきたといえる。
続けられそうな目標を設定したら、1日の終わりにどれくらいできたかを毎日書き残すのも、習慣化の促進のためにおすすめだ。
自分に合った習慣化を見つけるための秘訣は、とにかく「自分を知る」ことだ。たとえば、チョコレートが好きなら、習慣化したい行動をしているときにだけチョコレートが食べられるというルールをつくるのも有効である。そうすることで、習慣化したい行動が快の感情と直接結びつけられ、習慣化がしやすくなる。
一流のスポーツ選手は、重要な局面に入る前に、独特のポーズをすることがある。これはルーティンを行うことにより、最高の動きを再現するためのプログラムを潜在意識の中につくって、それを引き出すためだという。行動しやすいパターンを見つけて、ルーティンをつくることも、継続のコツだ。
「仕事の習慣」をつくるうえでも、「断捨離」の精神が重要だ。断捨離は、スペースをつくる、余裕をつくるために、とても大切な習慣だ。世に出回る情報量はすさまじいスピードで増え続けている。情報を取捨選択することで、心に余裕をつくることはとても重要なことだ。
何が目的かという存在意義、何が大切かという価値観、どこを目指すかというビジョン、何をするのかという戦術が明確であれば、仕事において何が必要かを把握することができる。情報の断捨離の習慣を取り入れ、自分の仕事の軸を明確化しよう。
意志決定の際にも断捨離は重要だ。精神的リソースが必要とされる意志決定は、繰り返すたびに意志の力が弱まり、「決定疲れ」が起こる。そうなる前に、余分な意志決定を少しでも減らす必要がある。
私生活での些細な決断を極力減らすことは、最高の仕事をするための習慣の1つだ。スティーブ・ジョブスがいつも黒のタートルネックを着ていたことは有名だ。そうすることにより、日々のコーディネートを考えるためのエネルギーが節約でき、意志決定の断捨離ができる。朝ごはんのパターンを決めておくなど、衣食住のパターンを設定し、仕事以外で意志決定の要素を少なくするのがポイントだ。
仕事をしていると、年齢を重ねるにつれて、若い頃と同じようには身体が動かなくなっていくことに気づくだろう。身体は私たちの人生全体を支えてくれる土台であり、その土台を盤石にするためには、食事、運動、睡眠、姿勢において良い習慣を取り入れる必要がある。
その中でも、早起きの習慣は最も効果的な生活改善方法だ。世界に影響を与えるようなスーパービジネスパーソンは午前4時台に起床する。早朝の1時間は日中の2時間の価値があるといわれている。ゆっくり自分と向き合ったり、考えを整理したりするうえで、朝の時間は不可欠であるといえる。早起きの習慣は、数ある習慣の中でも最も取り入れたいものの一つである。
人間とは元来、放っておくと要らぬ心配をしがちなものだ。エスカレートすると不安症や、虚無感、無価値観にまで発展するケースも出てくる。体や運動の習慣と同様に、普段の生活から心を安定させる習慣を身につけることは、不安やストレスを軽減し、健全で安定した心の状態を保つのに大いに役に立つ。
自分の気分や感情は、自分自身のものごとのとらえ方がつくり上げているといわれている。そのため、潜在意識をコントロールすることができれば、望ましい精神状態を保つことができる。
まずは「その考え方、とらえ方はポジティブなものか?」と自分に投げかけてみることだ。
自分に反論してくる人に対し、敵意のある人だととらえてしまうと敵対関係になってしまうが、反論もたまには参考になるのではないかと考えれば、感じ方は変わってくる。そうするうちに、意識のベクトルが外向きになっていき、相手や自分の周囲の環境が変わってくることを実感できるようになる。
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