愛知県の国道248号線を岡崎市から豊田市のほうへ北に向かってクルマで走って行くと、「論地が原」と呼ばれる地域がある。その論地が原の真ん中の小高い平山にあるのがトヨタ自動車の本社だ。論地が原はかつて、盗賊や追い剥ぎが跋扈(ばっこ)していた地域であったが、そこから売り上げ27兆5000億円、営業利益2兆8000億円の会社が生まれた。当然、当初から資金や技術が豊富にあったわけではない。しかし彼らには情熱と、ある種の確固たる信念を持っていたからこそ、ここまでの成功を収めることができた。
トヨタの構造は大きく2つに分けられる。国道248号線の西側にあるクルマの生産部門と、東側にある開発部門だ。このうち、西側の生産部門のノウハウである、いわゆる「トヨタ生産方式(TPS)」については有名だろう。ジャスト・イン・タイム、自働化、カンバン、アンドン、多能工、5S(整理、整頓、清潔、清掃、躾)、QC(Quality Control)、サークル(製品管理サークル)、VA(Value Analysis)といった手法は、これまで多くのトヨタ関連本で解説されてきた。そのため、一般的に国内でトヨタといえば、このTPSのイメージが強い。
一方、東側で行われているのは、「トヨタ流の製品開発(TPD)」である。実は、現在のトヨタの強さの秘密はこのTPDのほうにある。TPDで行っているのは、製品の「設計情報」の作成だ。東側のPTDで企画、設計、開発、試作、試験を経て完成した設計情報が、西側に渡され、TPSに基づいて、クルマという形にアウトプットされる。
このTPDを代表する有名なノウハウが、主査制度(現在のチーフエンジニア制度)である。
主査は、担当する製品に関するすべての事柄に責任を持つ。まず、(1)市場、顧客・非顧客、競合の情報、(2)技術の情報、(3)
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