ポジショニング論とは文字通り「相対的な位置取り」を意味する。「顧客ニーズをくみ取りながら」「その顧客の頭の中に」「競合とは異なる位置づけを得る」という3点を重要視する考え方だ。その根底には、違いによって人を動かす差別化の思想がある。
第二次大戦後のアメリカでは、テクノロジーの進化により類似品が多く出回るようになり、企業は顧客にとって無意味な差別化に走るようになった。そんな環境下にあった1969年、広告業界誌で初めて「ポジショニング」という言葉を紹介したのは、アル・ライズとジャック・トラウトである。彼らは、情報社会で成功するためには自社ブランドの長所や短所だけでなく、競合ブランドの長所と短所も計算に入れ、消費者の頭の中に確固たるポジションを築かねばならない、と主張した。つまり、「頭の中での位置づけを争う」というやり方だ。
具体的には、まずポジショニングマップを描いていく。、縦横2軸の4象限に分けたチャート上に、例えばプレミアムかスタンダードか、リラックスかリフレッシュか、といった顧客目線の軸を設定し、自社ブランドと競合ブランドをそこに位置づけながら、余白がどこにあるのかを探るのだ。ここでポイントとなるのは、自社ブランドに有利に働く「競争軸」を見つけることである。同時に、一部の人しか求めないニッチなブランドにならないよう、とがったポジショニングと、メジャー感のバランスをとることも重要となる。
ブランド論は、「らしさ」の記憶こそが人を動かすという考え方である。アメリカ・マーケティング協会は、ブランドを「個別の売り手の商品・サービスを競合他社のものと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはその他のもの」と定義した。とはいえシンボルは「マーク」にすぎず、マークを見ただけでその商品の特徴や品質、価値などが消費者の脳裏に浮かぶようでなければ、ブランド戦略は成功したとはいえない。
ブランドは、映像や個人的な経験などに紐づく「連鎖した記憶」がひとつの塊になり、好意的な感情によって包まれることで形成される。例えば、あるミネラルウォーターを「富士山麓の太古の地層でゆっくり濾過され磨かれたミネラルバランスのよい水」と形容したとする。消費者は「富士山」「太古の地層」「ミネラルバランス」のひとつひとつを正確に理解しているわけではない。しかし、これまでの知識や経験に基づく感情との連鎖によって「良さそう」という期待を抱き、そのブランドを長期にわたって記憶するようになる。
ブランド戦略のプランニングで必要なポイントは次の4つである。①「らしさ」の鮮度を保ち続けること、②ブランドの本質的な価値よりも、社会におけるその役割や方向性(ミッション・ビジョン)を重視すること、
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