人を動かすには、リーダーが自分の言葉で「語る」力だけでなく、事実・本質・大局を「見る」力と、言行を一致させ実績を伴わせる「実行する」力が不可欠だ。これらがそろって初めて、社員の理解と納得、そして信頼が得られる。「見る」「語る」「実行する」という視点から、コマツのV字回復の軌跡を振り返ってみたい。
人を動かす言葉の必要条件の一つは、その言葉が本質を突いていることだ。よって、事実を的確に「見る」ことが不可欠である。
コマツの経営が厳しい状況にあった90年代、社内外では「日本のものづくりは、海外より製造コストが高いために競争力を失った」という意見が主流だった。しかし、坂根氏は、コマツの問題の本質は、固定費の高さにあると見ていた。彼の分析によると、2001年時点で、米国の競合よりもコマツのほうが、固定比率が約6%重く、その分売上高営業利益率も6%程度低かったという。この事実を社員に突き付けたことで、「固定費を減らせばいい」という坂根氏の言葉に、誰もが耳を傾けるようになった。
坂根氏は、固定費削減策の一つとして、年齢や役職、業務内容を問わず希望退職を募った。本来、大幅な賃金カットで対応することも可能だった。しかし、坂根氏は固定費よりもさらに一段深いところにある、社員の「正しい危機感」の欠如という問題にメスを入れたいと思っていた。当時の社員の大部分は「業績悪化は、コマツが半導体関連事業に手を出しているせいだ」とし、本業である建設機械が赤字になりそうだという現実を直視していなかったのだ。
経営者は数字に表れない問題を見抜く力が求められる。なぜなら雇用が保証されているうちは、社員が本物の危機感を抱くことはないからだ。こうした確信を得た坂根氏は、危機感を社内に醸成するべく、全員一律に希望退職を募るという英断を下した。
坂根氏は希望退職を募る際、全社員に2つの約束をした。
1つ目の約束は「必ず2年以内に結果を出す」というものだ。人は進む先に光が見えていれば、多少は我慢できる。だからこそ、リーダーは出口の見通しを具体化する必要がある。坂根氏は、不採算事業の見直しなど、コスト削減を徹底した結果、約束通り2年後には成果を目に見える形にすることができた。
2つ目の約束は、「雇用に手をつけるのは、今回一度きりにする」という内容である。
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