中小企業の社長が理想とする「頼れる右腕」「後継者を支える参謀」とは、社長の思いや考えを理解し素早く行動に移せる人物を指す。しかし、そのような人物はめったにおらず、ほとんどの社長は幹部社員に不満を抱いている。
具体的な問題点は、幹部社員が目の前の業務で手一杯になってしまい、その結果「会社全体を見る」という大局的な視点を養っていない点である。つまり、社長と理念や価値観を共有し、会社全体の経営状況や業界動向、市場環境などを俯瞰的に把握したうえで具体的な指示を出すことができないのだ。もちろん、組織体制が万全で分業化が進んでいる大企業とは異なり、中小企業の社員はえてして「何でも屋」になりがちだ。しかし、幹部社員たるもの、自社の全体像くらいはスムーズに説明できなくては困る。経営者的な視点を持ち、自社の置かれている状況から自分たちの業務の課題を割り出していく力を身につけることが重要だ。
さらに幹部社員の他の問題点として、「自律的に動けない」という点が挙げられる。中小企業の大多数はオーナー企業であり、時に強すぎるリーダーシップから「自分の言うとおりにしろ」「社長である自分のやり方に従うのが当然」と考えがちだ。そのため、自分の頭で考え、判断できる社員が育たなくなってしまう。そのような指示待ち社員が幹部になったのでは、組織としての成長は見込めない。
多くの問題を抱えた中小企業において、社長の右腕として会社を正しく導く幹部社員になるには、どのような条件が必要となるのだろうか。
先述した「全体を見ること」は「戦略的視点を持つこと」に、そして「自律的に動くこと」は「マネジメント力を発揮すること」にそれぞれ置き換えられる。そしてもう1つ、幹部社員に欠かせない条件が、戦略とマネジメントを支える「数字力」だ。川上で構築した戦略を川下で実行する際の底流には常に数字がある。しかし、「会計や簿記を習ったことがない」と案ずるには及ばない。見るべき数字は「売上」「コスト」「利益」の3つだけであり、「売上-コスト=利益」というシンプルな数式を頭に入れておけばいい。利益を増やすには「売上を伸ばす」か「コストを下げる」か、もしくはその両方をやるしかない。「額」や「率」をもとに数字を探ることで、会社や部門の課題を抽出し、売上や利益向上の施策を考え出すことができる。
中小企業の幹部社員の多くは、数字が経営の土台であるという意識に欠けているため、数字に無関心になりがちだ。しかし、幹部社員こそ、きめ細かく数字を見る必要がある。
最後に、「戦略的思考」「マネジメント」「数字力」という3つの条件を意識しながらも、幹部社員は部下から信頼される「人間力」も備えておきたい。人一倍、頭と体を使い、気合いと根性を持って仕事に向き合っている上司になら、部下はついていこうと考えるだろう。さらに、これらの要素は、あらゆる組織を率いるリーダーに必要なリーダーシップと、ほぼ同義なのである。
ここでは、小さな会社の幹部社員が持つべき「基本的なものの考え方」を紹介する。
京セラを創業した稲盛和夫氏は「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という、素晴らしい人生を送るための方程式を説いている。そして、この「考え方」がマイナスなら、掛け合わせた結果がマイナスになってしまうとしている。よって、仕事に臨むときの正しい考え方や心構えを持つことは大前提となる。
著者が幹部社員に心掛けてほしいと考えている心構えは次の3つである。
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