「準備」という言葉から多くの人が思い浮かべるのは、資料作りのための素材集め、顧客への企画書作成のためのデータ収集、といったことだろう。しかしその前に、忘れてはならない「準備」がある。それは「仕事の目的を確認する」ということだ。これを怠ると、的外れな情報素材を集めてしまったり、顧客の役に立たない企画書を作ってしまったりなど、やり直し・差し戻しに余計な時間を要する羽目になる。
だが、すべての依頼者が仕事の目的を事前に伝えてくれるとは限らない。仕事をするうえで大切なのは「相手が求めることに応えること」であり、それが何なのかを探る力が不可欠だ。そして依頼者の目的が曖昧な場合は、一緒になってはっきりと定めていく、という姿勢が重要なのだ。
著者が、雑誌の仕事である有名な俳優兼ミュージシャンをインタビューしたときのことだ。雑誌の読者層は60代が中心で、取材対象の男性は当時40歳を間近に控えていた。雑誌がこの男性を誌面に登場させる狙いは「彼と同世代の若い人に手に取ってもらい、将来の読者となり得る層を新規開拓したい」というもの。この目的を確認せず、ただメインターゲットである60代向けに記事を作っていたなら、依頼側の意図するものとはならなかっただろう。
仕事にはすべて目的があり、目的があるから仕事が生じる。これに気づかず言われたとおりの作業をこなすだけの人は、ピント外れの仕事しかできない。すべての仕事は、その目的の確認から始めるべきである。
次の準備は、「ターゲットを理解する」である。すなわち、「その仕事は誰のためのものか」を意識することである。この際に注意するべきは、「発注者がその仕事のターゲットとはならない、ケースがある」ということである。例えば、著者はライターであり、発注者は出版社の編集者だが、ターゲットは読者である。この場合は、依頼した編集者のためではなく、読者にとって「役に立つ」「面白い」と思ってもらえることが大切になる。逆に、編集者のために仕事をして気に入ってもらえたとしても、読者の支持が得られないものが仕上がったとしたら、本来の目的を達成できず本末転倒となってしまう。
これは、編集やライターの仕事に限らず、すべての仕事に置き換えることができる。ある秘書職の女性は、日常的な会議資料の作成でもターゲットを必ず意識するという。彼女は、事前に会議の出席者を確認する。部長クラスの集まりか、社長・会長クラスの集まりかで資料の作り方が異なるのだ。出席者が社長・会長クラスの場合は、年齢による視力の衰えを考慮し、資料の文字サイズを通常より大きめにする。このような些細なことでもターゲットを意識すると、行動の一つひとつを変えていくことに繋がるのである。
3つ目の準備は、「アウトプットイメージを依頼者と共有すること」である。最終的な仕事の仕上がりイメージを依頼者と共有できていないと、仕事はうまくいかない。
例えば上司から「部内で打合せするためのデータをまとめて欲しい」と指示があったとする。
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