グローバリゼーションの時代を迎え、文化や価値観の多様性が尊重される現代社会において、多くの日本企業が「人」の問題に苦戦している。特に海外展開においては、国内では当たり前の経営手法やスタッフのマネジメント方法が現地で受け入れられないという問題が頻繁に起こっている。このような課題に対して本書が提示する解決策は、心理学の一分野である行動分析学に基づいた「ポジティブな行動マネジメント」である。これは世界のトップ企業を支援している米国のコンサルティング会社CLG(Continuous Learning Group)も活用している実践的な方法論だ。部下が思い通りに行動しないと悩むリーダーに対して、多様性を尊重しながら業績向上をめざすためのフレームワークを提供する。そして、ポジティブな行動マネジメントは、性格や能力の違い、文化の多様性を越えて、世界中どこでも通用する普遍的な方法論である。
行動分析学の研究から得られた、人を動かすためのいくつかの公式は、新たな時代のリーダーの強力な武器となる。その最も基本的な公式は、企業の業績や価値はそこで働く人の行動によって決まるという点から導き出される「V(業績:Value)=B(行動:Behavior)」である。
リーダーシップとは才能や適性ではなく、誰もが学んで身につけられるスキルである。ポジティブな行動マネジメントにおけるリーダーの役割は、業績を生み出すのに重要な行動の自主的な実行を、「引き出し、維持すること」だと定義される。
つまり、リーダーに求められていることは、まず部下の行動に着目し(「行動化」)、その中から事業の成功にとって重要な行動を選び(「焦点化」)、選ばれた行動(「標的行動」)の実行を支援すること(「介入」)である。その過程では、標的行動を部下にとって「やらなければならないこと」から「やりたくてやっていること」へ転換することが重要だ。そして、そのような業績につながる標的行動を、着実に実行し持続させることこそリーダーの仕事である。
このようなリーダーの行動(BL:Behavior of Leaders)は、組織の他のメンバーの行動(BF:Behavior of Followers)を動かす原動力であることから、「V(業績)=BL×BF」と表すことができる。
業績が思うように上がらないときに、リーダーが陥りやすい落とし穴がある。それは、業績悪化の原因を部下の性格や能力によるものだと考え、解決のための工夫をしなくなってしまう「個人攻撃の罠」である。しかし本来、性格とは、行動の原因ではなく行動の傾向をまとめて表現したものを指す。
個人攻撃の罠から抜け出すには、その行動を引き起こす環境、すなわち「随伴性」を見極め、問題となる行動を引き起こす環境を変えることが重要である。
標的行動を洗い出す行動化の段階では、心理学をかじったことのある人が陥りやすい「心理学の罠」がある。これは、例えば「自主性」「想像力」「判断力」といった抽象的な概念を標的行動として設定してしまうことを指す。この罠にはまると、曖昧な能力を高めるために、部下を著名人の講演会に送り出すといった対策を講じることが増える。しかし講演会や研修で得られる知識は、一時的な感動をもたらしても、業績に結びつく継続的な行動変容には至らないことが多い。
この罠から脱するには、「ビデオクリップ法」による課題分析が有効だ。
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