数年前のある朝、著者は目が覚めたときから気持ちが沈んでいた。興味のないプロジェクトに参加し、仕事の進め方も性格もまったく違う同僚のルーカスと共に、新しいクライアントとの会議に出席することになっていたからだ。苛立ちと疲労感で重い気持ちのまま、著者は暗く狭い会議室のテーブルについた。同僚のルーカスがプロジェクトについて説明をしたが、参加者同士が勝手に話し出し、著者は会議がうまくいかなかったと感じていた。その思いをルーカスに伝えると、彼の印象はまるで違っていた。会議の雰囲気は悪くなかったし、陽気な笑いが起こる瞬間もあり、目的を達成できたと感じていたのだ。
なぜこのような違いが起こったのか。それは、「その日に対する姿勢」が初めから違っていたからである。会議の目的を明確に把握していたルーカスに対し、著者はなりゆきに任せていたのだ。
人間は毎日、身のまわりで起こる出来事のほんの一部に注意を向けるだけで、それ以外の多くの仕事をフィルターで「除外」し、「自動操縦(オートパイロット)」で処理している。何がフィルターを通り抜けるかは、その日の優先事項や思い込みによって決まる。人間の脳は「注意に値すると決めたもの以外は見ない」という特性を持っているのだ。この性質を利用し、前日の夜、あるいは当日の朝に1日の方向性を設定し、目標を定める習慣を作ることで脳のフィルターが変わり、それに合わせて現実も変えることができる。
あなたに気持ちが明るくなる歌や、考えごとがはかどる場所はあるだろうか。反対に、「2時間の電話会議」という言葉を聞くと、反射的に憂うつな気持ちになるかもしれない。脳には、「関連性」を重視するという特性がある。たとえばある夜、友人と楽しい時間を過ごしたときに流れていた歌を聴くと、楽しかった記憶が呼び起こされて明るい気持ちになる。ある日の午後、窓際の席で次々といいアイディアが浮かんだなら、その席に座ると効率のいい仕事ができるように感じられる。
環境を整えることは、仕事の達成度に大きな影響を及ぼす。心を広く持つために、開放的な空間を用意しよう。アートや奇抜なものがたくさんある部屋で創造性を高め、会議室ではない場所で、リラックスして話をしよう。何が効果を発揮するかは人によって異なる。デスクをすっきりと片づけるだけで、すっきりとものを考えるためのきっかけ作りができるかもしれない。
仕事中に電話をしながら書類に目を通す。または、昼食をとりながらインターネットを閲覧することや、会議中にメールをチェックしたことは、誰でも一度はあるだろう。私たちは、同時に複数の作業をすれば、1日の中でもっとたくさんの仕事ができると思いがちだ。しかし研究により、マルチタスクが生産性を低下させることが明らかになっている。2つの作業を並行して行った人は、同じ作業を1つずつ行った人と比べて時間が30%長くかかり、間違いも2倍になるのだという。また、マイクロソフトの従業員を対象にした研究では、仕事中にメールが届いた場合、返信をしてもしなくても、それまでやっていたことに完全に戻るには15分かかったという。
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