事業計画書は、ひな型に沿って、いきなり項目を埋めていくものではない。第一に考えるべきは、魅力的な事業内容である。
新規事業には、①そもそも世の中に存在しない事業、②世の中にはすでにあるが、その企業・起業家にとっては新しい事業の2種類がある。前者は売上のポテンシャルは高いが、事業の成立が不透明である。一方、後者は、大きな成長は見込めないものの、成功の確度が高い。そのため、新規事業の中身を検討する際には、「事業の可能性を追求すれば、確度が低くなる」という問題をどうクリアするかが問われる。
事業計画書は、目的や読み手によって盛り込むべき内容も様々だが、良い事業計画書には3つの共通した条件がある。それは、提案する事業に取り組む意義(Why)、具体的な取り組み内容(WhatとHow)、そして事業の確かさを検証・証明するための根拠(Why So?)だ。これら3つがそろって初めて、説得力に満ちた事業計画書が生まれる。
事業の中身を考え、構築するには次の5つのステップを経ていく必要がある。ここでは各ステップの概要を解説していく。
(1)事業コンセプト:まずはどの領域で何を行うかを決めるのが肝心だ。30~50件を目安に、できるだけ多く事業のアイデアを出し、それらを組み合わせるなどして発展させる。その後、約10件以下にアイデアを絞り込む。絞り込むときの注意点は、市場の大きさや実現性の高さにばかり着目していると、競合他社に真似される可能性が高くなるという点である。そのため、実現が難しいアイデアにも目を向けることが必要となる。
(2)顧客への提供価値:ターゲット顧客を絞り込み、その顧客が得られるベネフィットを明確化にしたうえで、検証を行うステップである。ポイントは、顧客のニーズが際立つよう、ターゲット顧客をしっかり絞り込み、提供する価値が顧客に評価されるかどうかや、競合と差別化できているかという点を見極めていくことである。そのうえで、実際の製品やサービスが顧客のニーズにマッチしているのかを探るために、早い段階で試作品や具体的なイメージを提示することがキーとなる。
(3)バリューチェーン:次は、価値提供に必要な機能や体制を指す「バリューチェーン」を検討するステップである。この段階では、顧客に価値を届けるまでの過程で、どんなオペレーションやマーケティングが必要なのかを詰めていかなければならない。
(4)マネタイズモデル:次なるステップは、「誰からどういう名目でお金をもらうか」という仕組みを設計するというものだ。具体的には、スポンサーからの広告料で収益を上げる「広告モデル」や、無料提供で受益者を増やしてから、さらに高度な価値を提示し、受益者に課金をする「フリーミアム」といった応用モデルも検討に入れる必要がある。そして、バリューチェーンで生じるコストを考慮しながら価格を設定する。
(5)キャッシュフローモデル:最後のステップでは、ターゲット顧客の市場規模やコスト、価格を決めてから、実際に利益が生み出せるかを考える。その際、各ステップの整合性がとれているかをチェックし、少しでも修正が生じたら、その前段階のステップも見直していくことが、良い事業計画書のカギとなる。
このステップを踏んでアイデアを実現していくには、協力者を見つけて巻き込んでいくことが欠かせない。最初の事業計画書を議論の叩き台にし、事業の実現可能性を高めていくよう心がけたい。同時に、仲間や外部協力者との間でビジョンが共有され、共通認識が生まれていく。この共通認識こそが、新規事業を現実化するための「背骨」となってくれる。
事業のアイデアを発想するための定番アプローチは、既存の技術やツール、インフラ、市場などの「新しい組み合わせ」を見つけることだ。そこで、他の業界にも目を向け、思いもよらぬ組み合わせを考えるとよい。フィルム技術と化粧品市場を組み合わせた富士フイルムの化粧品は、技術と市場の斬新な組み合わせによる成功事例の一つだ。
組み合わせを検討する際には、顧客のニーズに合わせた製品・サービスを開発する「マーケットイン」と、自社の技術を活かした製品・サービスをつくる「プロダクトアウト」という2つの発想がある
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